東京コンソーシアム会員の株式会社センシンロボティクスは、社会・産業インフラの設備点検、災害時の被害状況把握、防災・減災対応、警備・監視などの業務を中心に、AI、IoT、ロボットなどの先端技術を活用した業務プロセス改革の支援サービスおよびプロダクトをワンストップで提供するベンチャー企業です。本対談では、東京コンソーシアム・グリーンスタートアップ支援で株式会社センシンロボティクスを担当し、伴走者として支援をしてきた西村晋氏が、同社の代表取締役社長である北村卓也氏に、事業の魅力や今後の展望について話を聞きました。
北村 卓也[写真左](株式会社センシンロボティクス)
聞き手・進行:西村 晋[写真右](東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)
(敬称略)
西村:御社はSENSYN COREというコアテクノロジーを基盤に、顧客ごとの課題に応じたソリューションを提供しています。ただ、この説明だけでは具体的にどのようなものかイメージしにくい部分もあるかと思いますので、北村さんからSENSYN COREの魅力や、それをどのようにお客様に適用しているのかについてご紹介いただけますでしょうか。
北村:こちらのアーキテクチャをご覧ください。当社の事業では、スマートデバイスを制御してコントロールし、そこから取得したデータを活用して、異常や変状を検知するインサイトを得ることができます。これを実現するために、ITリテラシーが高くないエンドユーザーさんでも簡単に操作でき、長期間にわたって使いこなせる業務アプリケーションを提供しています。加えて、当社はSENSYN CORE Platformを保有しており、高い再現性を持ってデータを抽出し利活用することが可能です。アプリケーション、プラットフォーム、データ、これらを組み合わせて最適なソリューションを開発しています。
西村:今おっしゃっていただいたSENSYN CORE Platformとは、どのようなものなのか、詳しく教えていただけますでしょうか。
北村:SENSYN CORE Platformは、大きく3つの機能を備えています。1つ目は、SENSYN Edgeという、先ほどお伝えしたようなスマートデバイスを制御するためのエッジ技術です。人間にとって過酷な場所やリスクの高い現場で画像や映像、温度などのデータを取得する際には、ドローンや各種ロボット、スマートデバイスと呼ばれるツールを自動で動かすことが必要になります。弊社のSENSYN Edgeがそれを可能にします。
2つ目は、SENSYN Dataというクラウドサービスです。スマートデバイスが実際に収集したデータを、当社のクラウドサービスにアップロードすると、画像と地図データを紐付けたり、3次元復元したり、メタ情報がついた形で時系列に整理されます。これらが蓄積されるとビッグデータとなって統計情報として使えるようになります。
それを解析するのが、3つ目の機能であるSENSYN AIです。これにより、サビ、ひび割れといった異常や変状を自動的に検出でき、予防保全や予知保全に役立てます。最終的には、突発的な修繕や異常を減らし、計画修繕といった経営の意思決定をサポートします。同時にSENSYN AIはSENSYN Edgeの制御技術としても使われており、当社ではAIをコアテクノロジーとして位置付けております。
このように、当社ではエッジ技術、データ技術、AIの3つを活用してソリューションを提供しています。
西村:数多くの競合がいるなかで、御社が特に強みとしている部分や、他社に比べて優れているとお考えのポイントを教えていただけますか。もちろん、全体的に優れていらっしゃるとは思いますが、特にユニークな点についてお聞きできればと思います。
北村:当社の強みとしては、お客様のビジネスプロセスとデータの流れを非常に重視している点があります。これらは大きく3つのステップに分かれています。まず1つ目が、データを取得すること。2つ目が、そのデータを分析・解析すること。そして3つ目が、そのデータを利活用して、実際の業務や社会にインパクトを与えることです。
ロボットやドローンなどのデバイスを販売しているメーカーや、その分野に特化している企業は、どうしてもファーストステップであるデータの取得に固執しがちです。製品を販売したいという意図もあり、「人の代わりに動けば安全でしょう」、「まずは買って試してみましょう」というアプローチになりやすい。しかし、当社ではそのようなアプローチは取りません。まず、業務にインパクトを与える領域を最初に特定し、どんな課題があり、その課題を解決したときのインパクトを、仮説を立てて定量的・定性的に図ります。その方法が業務上かつ社会的にも意味があると考えているからです。そのためにはどんなインサイトが必要なのか、そのインサイトを引き出すためのデータはどこから発生しているのかといった、発生源を突き止める必要があります。
データを空から取得するのが最適であれば、ドローンを使用する選択肢もあります。しかし、ドローンには飛行中に墜落するリスクがあり、実際にテスト時には何度か落とした経験もあります。したがって、リスクを許容できない現場では地上走行型ロボットを使います。また、ハイテク機器が不要で、もっとシンプルな手法が適している場合には、ネットワークカメラやスマートフォンを活用することがあります。このように、当社ではハードウェアに関して特定のものに縛られず、柔軟な選択肢を提供しています。世界中の最適な技術を活用することができ、場合によっては人がデータを収集する方法でも良いと考えています。
我々の目指すところは、あくまで業務にインパクトを与え、ひいては社会に貢献することです。データの取得から始まり、分析・活用までを一貫して行う企業は多くありませんが、当社ではこのプロセスをワンストップで提供できることが大きな強みです。この点が評価され、多くの現場で当社のソリューションが採用されています。
西村:非常によく理解できました。お話を伺う限り、フォアキャスト型というよりも、バックキャスト型のアプローチを取られているように感じます。つまり、まず最終的に何を実現したいか、その結論をしっかりと議論し、見定めた上で、そこに向けてデータをどのように取得していくかを考えていらっしゃるということですね。そういった意味では、お客様の声をしっかりと聞き、何が課題なのか、真の問いを見極める力、すなわちコンサルティング力が非常に重要になってきますね。
北村:それはとても大切なポイントですが、お客様に「課題は何ですか?」と直接聞いてはいけないのです。一般的なソリューション営業ではそうするかもしれませんが、それではお客様が「課題はこれです」と答えた時点で、すでに他社にも同じ話をしている可能性があります。
西村:なるほど。つまり、その時点で課題が顕在化しているということですね。
北村:そうです。顕在化している課題であれば、お客様は価格が安くて機能が充実していれば、どの会社でも良いと考えてしまうのです。
西村:確かに、そうですね。
北村:我々は単なる一つのベンダーになってはいけません。目指すべきは、お客様と一緒に課題を見つけ出すパートナーです。そのためにまずはこちらから仮説を投げかけます。例えば、「この業態であれば、こういった課題やペインがあるのではないでしょうか?」といった形で提案します。そこでお客様が「ああ、確かにそうかもしれない」と共感してくださるか、あるいは「うちではないけれど、隣の部署でそんな課題を抱えているかもしれない」という会話につながり、話が広がっていきます。そうして課題が共有されたとき、「では、どう解決できるのか?」という流れになったら、これまでの当社の実績やエビデンスが参考材料として役立つわけです。私たちは単に提案するだけでなく、お客様と一緒に課題を捉え、それを共に解決するパートナーとして認識してもらうことを非常に重視しています。
西村:伴走して、お客様と一緒に課題や問いを見つけていくということですね。
北村:そうです。自分たちの商品を無理に押し付けていては、真のパートナーにはなれません。
西村:そういう意味で言うと、最初の接点はどのように作られることが多いのでしょうか?
北村:最近は口コミが多いですね。それが一番うれしいことです。
西村:確かに、それは最高ですね。
北村:お客様の他部署から「こういうことをやっていると聞いたのですが、どうですか?」と相談をいただいたり、同業他社からも「噂を聞いているけど、うちでも試してみたい」と声をかけられたりすることが増えています。特に、重厚長大な業界では意外と情報が共有されることが多いのです。我々も多くの企業を訪問しますが、成功率が高いのはやはり口コミですね。
西村:やはり、プッシュよりもプルのほうが効果的ですね。
北村:これまでは「ドローンの会社」と思われることが多かったのですが、それはドローンが非常に優秀で、データを取得するために便利なツールだったからです。しかし、ドローンだけではできないことも多いため、他の手段をどんどん増やし、我々のプラットフォームでこれらのツールを自動制御して、誰でも安心安全に、スキルがなくても活用できる状態まで“民主化”を進めてきました。
その結果、膨大なデータが我々に集まってきており、今はそのデータを利活用し、インパクトを生み出すフェーズに移っています。特に力を入れているのはAIの領域です。元々AIチームがありましたが、ここ1~2年で本格的に機能し始めました。
具体的にどんなインパクトを出しているかというと、例えば風力発電のブレード(羽根)の点検の事例を紹介します。ひびやサビのレベル判定をし、例えばレベル2なら経過観察いいよねとか、レベル4以上なら高所や危険な場所であっても検査の工程に回って、そこで初めて人が直接ロープアクセスし昇塔する、といった判断をします。実際に修繕が必要であれば、部材の発注をしたり、協力会社さんに修理を促したりする、というような工程に回っていきます。他にも建物の壁面タイルやコンクリートのひび割れ、電力設備の電線や鉄塔、ボルトの緩み検知など、様々なインフラの点検をAIで実現しています。
また、プラント内にあるプレッシャーゲージ(圧力計)の自動読み取りや、ユニークなものですと、製鉄所での火花検知なども手掛けています。製鉄所では鉄を加工する際に生じる火花によって火災が起きないように、安全監視員が必ず立ち会うのですが、人間なので見逃すこともあります。そこで、火花がある一定の閾値を超えて飛びすぎるとアラートを発する仕組みを構築しました。さらにアラートと同時に前後数十秒を録画することで、トレーニングや振り返りに使えるエビデンスを残すことができます。
このように、基本的に我々は装置の点検や保全業務を入り口にしていますが、その周辺には多くのリスクやアナログ領域が存在しています。そうしたお客様が抱えるリスクや課題を近くで聞き取り、それに対してドローンやロボットを使う仕組みだけでなく、純粋にソフトウェアで解決できるのであればそれを実行し、データを活用してお客様の業務にインパクトを出すというのが我々の目指す方向性です。
西村:つまり、設備点検はあくまで入り口に過ぎないということですね。それをきっかけにお客様との距離を縮め、課題を解決してお客様のDX推進に取り組んでいるということですね。
西村:ちょっと素朴な質問なのですが、ドローンやその他のデジタルデバイス、スマートデバイスで情報収集する際の精度について教えていただけますか。皆さん、どれくらいの精度があるのか気になるところだと思うのです。もしこれである程度、人の目が不要になるレベルなら理想的ですし、人の目も必要だけど、基本的にはAIだけで判断できるのか。現在のスマートデバイスによる画像診断は、どのあたりまで進んでいると理解すればいいでしょうか?
北村:AIはまだ人間の目には追いついていません。人間は、例えば匂いなど五感を使う能力が非常に高いですからね。AIやロボットは一点集中型なので、そこでは人間に勝てません。ただ、耐久性や、同じ作業をずっと同じ精度で続ける能力では、AIやロボットが圧倒的に優れています。
お客様からよく「人間がやったほうが精度が高いんじゃないか?」と言われることがあります。「人間より精度が高いなら導入を考えます」と。でも実際に、人間が常にその高い精度を維持しているかと言えば、そうではありません。見逃しもありますし、疲れてくれば目もかすんでしまいます。さらに、高齢になるにつれて精度が変わってくることもありますよね。そう考えると、平均的に見て優位性を持つのはAIなのです。
西村:瞬間的には人間の目が優れる場面もあるかもしれませんが、常に安定したパフォーマンスを発揮するという意味では、こういったソリューションを導入することが少子高齢化の進む日本では必要不可欠ですね。
北村:そうですね。昔から「勘・経験・度胸(KKD)」と言われますが、それをAIと比べても意味がないのです。AIにそれを担わせ、できるだけ標準化することが目標です。だから、精度が100%に近くなければダメだという議論はあまり有効ではありません。70%でも、常に同じ精度で作業を続けられるほうが良い場合もあります。そういった議論をすることが重要なのです。「精度が何パーセントか」という問いは本質を捉えていないのです。大切なのは、機械と人間が共存することです。
西村:なるほど。確かに100%を追求すると、やはり見切れない瞬間もありますよね。人間の限界や問題点を正しく認識し、機械と人が共存して、24時間同じパフォーマンスで働ける機械と、人間の五感が補完し合う関係というのが理想的ですね。対立的に捉えないで、協力し合うことが大切ということですね。
北村:そうです。よく言っているのですが、ロボットやAIと人間は協調すべきだと思います。例えば電力設備の鉄塔は何千本もありますよね。そのうち、AIを使って「この10本だけは人がしっかり見ないと危ない」という判断ができれば、生産性は一気に向上します。そういったスクリーニングの役割をAIが担うのが理想です。
西村:それは非常に重要なメッセージですね。確かに機械が全てやる、という0か100かの議論に陥りがちです。
北村:はい。この業界だけでなく、他のテクノロジーも同じように、人と機械が協力するほうが価値を発揮すると思います。
西村:先ほどAIの強みとして耐久性を挙げられましたが、詳しく教えていただけますか?
北村:人間は疲れますが、AIは疲れません。例えば、ドローンやロボットで対象物を撮影すると、一度に数百枚、多いときは数千枚ものデータが集まります。それを人間が一枚一枚確認するのは大変ですし、やりたくないですよね。だからこそ、自動化しないと処理が追いつかないのです。逆に、人間なら「ここは大丈夫そう」「ここはおかしそう」と直感で判断して終わることもありますが、データを人が分析するとなると、すべての画像を細かくチェックすることになり、作業量が増えてしまいます。だからこそ、AIで自動的に異常をあぶり出す仕組みが必要です。そうすることで、人が見逃した部分を補えるかもしれませんし、人では見つけられなかった異常を検出できるようになります。
西村:ドローンによるデータ収集が自動化されたとしても、その後の分析作業を人間がやるとなると、何千枚ものデータを確認するのは現実的ではないです。だから、AIと組み合わせることで、データを有効に活用できるわけですね。
北村:その通りです。実際にデータを収集したものの、処理せずに放置している会社も少なくありません。ツールを使ってデータを集めても、それが大量にハードディスクに保存されただけでは、お客様が点検に活用できません。
北村:そこで私たちがまず取り組んだのは、収集したデータに意味を持たせるために、どの場所で撮影されたデータなのかを自動的に紐づける仕組みを作ることでした。どこで撮影されたかが分かるように地図とリンクさせるのです。そうすることで、特定の場所に対応したデータが視覚的に把握できるようになります。その上で、場所ごとに数百、数千枚のデータを自動的に分類し、AIを使って異常を見つけ出すことができるようにしました。
これがビッグデータになってくると、傾向を見つけ出すことが重要になります。例えば、「この部分は検査の頻度を下げても大丈夫かもしれない」とか、「この機械はもうすぐ故障しそうだ」といった予測をするのです。また、「今なら時間的にも作業量的にも余裕があるので、事前に修理してしまいましょう」という計画的な対応も可能です。そうなれば、仕事やメンテナンスのやり方自体が大きく変わり、これまで数百人必要だった業務が、数十人で済むかもしれません。これによって、人手不足の問題にも対抗できる可能性があるのです。
現在、TBM(タイムベースドメンテナンス)からCBM(コンディションベースドメンテナンス)への変革が求められています。TBMは、定期的に決められた時期に行うメンテナンスのことです。しかし、この方法ではリソースが足りなくなってしまいます。老朽化した設備が多すぎて、定期メンテナンスだけでは対応しきれません。その結果、メンテナンスが行き届かず、災害時に設備が故障したり、事故が発生したりするリスクが高まります。
一方で、CBMは設備の状態をリアルタイムで把握し、問題が発生しそうな兆候を捉え、早めに対策を講じるアプローチです。危険なエリアを事前に特定し、計画的に対応することができます。こうしたコンディションベースのメンテナンスに移行することで、より持続可能な未来を築けるのではないかと思います。
西村:TBMからCBMへの切り替えは、かなり大きなテーマですね。
北村:そうですね。そうしないと持続できないと言われています。
西村:そこに対して、御社は先進的に取り組んでいるわけですね。
北村:はい。お客様とお話ししているだけでも、現場が非常に過酷な環境だというのが伝わってきます。
西村:明らかに過酷ですよね。
北村:そうです。いわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」な業務も多いので、仕事を選べるなら、進んでこの業界に入りたいという人は少ないのが現状です。もっと稼げて、3Kではない仕事があるなら、そちらに流れてしまいますよね。だからこそ、こうした過酷でリスクの高い仕事を新しいテクノロジーで代替していくことが重要だと思います。そうすることで、この技術を使って働きたいという新しい人材が現れる可能性があります。実際、ロボットやAIを使ってインフラ領域やレガシーな分野をアップデートしているという取り組みは、理系の人材にとても魅力的に映るのです。こうした人材が増えることで、違った形での人手不足の解消にもつながるかもしれません。そういった副次的な効果も期待して取り組んでいきたいと考えています。
西村:御社のウェブサイトを拝見した際に、ドローンのアカデミーのような事業を始められたというニュースも見ました。ドローンの担い手を増やすことで、さらに事業の裾野を広げていくという印象を持ちました。
北村:実は、今お話ししたような内容を、アカデミーに組み込みたいと考えています。単に「ドローンアカデミー」ではなく「SENSYN ROBOTICS ACADEMY」と名付けたのには理由があります。第1弾としては国の資格制度に対応するため、ドローンに焦点を当てていますが、そこに限らず、これまで当社が培ってきた成功例や失敗例を含め、ノウハウや経験を共有する場にしたいのです。これまではアカデミーの形式で提供していませんでしたが、実際にはお客様向けのトレーニングや教育を、年間を通して非常に多く実施しています。それをもっと広く展開することで、社会的価値がさらに高まるのではないかと考え、始めた取り組みです。今後は、ドローンだけでなく、AIやその他のロボット技術など、さまざまな領域での活用方法を教え、必要な訓練を提供していきたいと考えています。
西村:なるほど。同じ志や視点を持った人たちを、さらに増やしていきたいという考えですね。
西村:今後、クライアントを増やしていく上での課題感や戦略について教えていただけますか。すでに海外進出にも取り組んでいらっしゃいますよね。
北村:そうですね。海外での課題としては、各国のレギュレーション(規制)の違いが大きいです。当たり前ですが、国によって法律が異なり、さらにルールや慣習が法律に明記されていないことも多いのです。
西村:確かに、国ごとの文化や慣習はさまざまですからね。
北村:そうですね。もしそういったことを間違って扱えば、テロ行為と誤解されて逮捕されるリスクもあります。インフラはその国の資産なので、単独で海外に進出するのはリスクが大きい。やはり、現地の事情に詳しいパートナーが必要なのです。そうしたパートナーを見つけることが、私たちの課題であり、中長期的な戦略でもあります。
西村:特にパートナーに期待している役割はどのようなものですか? 例えば、販路開拓や顧客の発掘、サプライチェーンの確保など、どの分野に期待しているのでしょうか?
北村:理想的には、現地のお客様そのものと直接連携できることですね。日本と同様、海外でもリスク低減や人手不足だけでなく、技術の標準化やエンジニアリングリソース不足などの課題があるので、そういったニーズに対応できるデジタル化を進めたいと考えています。それが1つの大きな目標です。
しかし、これだけでは海外特有のリスクにさらされるため、現地で設備や装置を納めている企業と提携することも重要です。そういった企業は、現地のルールや慣習を熟知していて、長年メンテナンスなどで関わっているので、そのパートナーシップを活用することがリスク回避に繋がると考えています。
西村:まさにその通りですね。東京コンソーシアムも同じような戦略を取っていて、日本で既に海外と取引をしている企業にアプローチし、現地での展開を目指すという手法を実行しています。あと、海外進出の課題としてよく挙げられるリードタイムの長さについては、これは特に海外に限った問題ではありませんよね?
北村:そうですね。特に重厚長大な業界ほど、プロジェクトの進行はゆっくりです。お客様のリスク管理や業務調整が必要ですし、関わる全員の承認や安全性の確保が必要です。それは理解できるのですが、正直、遅すぎると感じることもあります。そのため、私たちはプロセスを加速し、理解を深めてもらうために、毎月積極的にプレスリリースを発信しています。
西村:まだ新しい取り組みなのに、プレスリリースを出すのは勇気がありますね。
北村:そうですね。真似されるリスクもありますが、それ以上に、私たちは市場を作るマーケットメーカーであるという自負があります。仲間を集め、お客様に共感してもらうことが何より大事だと思っているので、率先して情報発信をしています。
西村:その点は、先ほどのアカデミーの話ともつながりますね。
北村:そうですね。
西村:マーケットメーカーとしての役割、とてもしっくりきました。
北村:市場は自分たちで作らないといけませんからね。
西村:国内と海外で話の進め方に違いを感じることはありますか? 御社は国内外両方で事業を展開されているので、もし感じている差があればお聞きしたいです。
北村:一見すると、海外のほうが意思決定が早そうなイメージありませんか?
西村:ありますね。「いいね」ってすぐ決まりそうです。
北村:でも実際はそんなに早くないんですよ(笑)。むしろ遅い場合もあります。日本とあまり変わりませんね。
西村:なるほど。勝手に日本のほうがかなり遅い印象を持ってました。
北村:例えば、チャットGPTの導入とかそういう話なら即決かもしれませんが、インフラを守るとなると慎重になりますね。失敗が許されないですし、事故が起これば責任が問われますから。
西村:特にプロセスがゆっくり進むポイントはどこなのですか? ドアノックの段階で話が届いても、その後なかなか進まないフェーズがあるのでしょうか。
北村:そうですね。私たちも直面している課題ですが、例えばロボットを使ったソリューションの場合、どのハードウェアを使うかが大きな問題です。我々はソフトウェアで対応できるので、対応デバイスがあればいいのですが、その国で使用可能なデバイスがあるかどうか、プロトコルが通るかどうかといった問題があります。こうしたハードとソフトの組み合わせで現地に導入できるかが鍵になりますし、その調整にはかなりの時間がかかります。通信の帯域も関係してきます。
西村:なるほど。デバイスの設定が大きなポイントなのですね。
北村:そうです。さらに、現地で保守ができるプレーヤーを見つけなければならないですし。
西村:保守やメンテナンスを担当する人も必要ですよね。それだと確かに時間がかかりそうです。
北村:そうなんですよ。パソコンやスマホだけで完結すればいいのですが、経済安全保障やインフラの問題も絡んできますから。
西村:これまで東京コンソーシアムとしてご支援させていただきましたが、率直にどのような感想をお持ちですか?
北村:脱炭素に関するシミュレーションを一緒に進めてもらいましたよね。我々のソリューションが脱酸素に対して本当に効果を発揮できるのか、もし効果があるならどれくらいのインパクトがあるのかを、環境省の基準に基づいて計算していただきました。その結果、やっぱり効果が出るんだなと確認できました。もちろん、それだけで我々のソリューションが採用されるわけではないでしょうが、副次的な効果としてポジティブな影響があるというのは、大きな意味があると思っています。今後、有価証券報告書にCO2削減の取り組みを記載しなければならないこともでてくるでしょうし。また、投資家からも、ESG経営の観点からポジティブな評価を得られる要因になるかと思います。そういう意味で、基礎データが整ったことには非常に感謝しています。
西村:そう言っていただけるとうれしいです。
北村:ああいった作業って、正直言って面倒くさいじゃないですか。地味な作業だし。
西村:いやいや、それが私たちの仕事ですから。
北村:でも、そういう部分に長けている人がいると本当に助かりますよ。いろんなデータを組み合わせて結論を導き出してくれて。力技でやればできるのでしょうけど、そういうのが得意で好きな人があまりいないのです。
西村:あのプロジェクトで投資が成立すれば最高のシナリオだったんですが、なかなかうまくはいきませんね。
北村:それでも、あの結果には感心しました。そんなに良い影響があるんだって。でもそれがあるから我々のソリューションが採用されるとはといったことはないですけどね(笑)。
西村:まあ、そこは副次的な影響があるということで(笑)。
西村:マーケットメーカーとしての役割を担っていくなかで、センシンロボティクス社を今後どのように展開していきたいとお考えですか?
北村:まず、これは全社にも伝えていることですが、ドローンやロボットを使ってインフラのメンテナンスや保全を行う際に、最初に相談される、第一に思い浮かぶプレーヤーになりたいと考えています。
我々の価値は、相談を受けたときにそのまま提案するのではなく、先ほどお話ししたように、真の課題を捉え、最適な解決手法を最短かつ最速で提示し、実行までサポートすることです。そのためには、まだ不足している部分もありますが、私たちは常に最先端の技術を取り入れようとしています。最近では業務にも組み込んでいますが、LLM(大規模言語モデル)や生成AIといった技術との親和性が高いので、これらをいち早く取り入れ、お客様にもその効果を提供できるようにすることが、我々の戦略の大きな柱です。
お客様との関係を見てみると、すでに多くのファシリティを持つオーナー企業にはリーチできていますが、その周辺にいる関連会社にもデジタル化の波を広げたいと考えています。これを成長戦略の一つとして組み込んでいます。
西村:関連会社というのは、具体的にはどういうところですか?
北村:例えば、電力会社や製鉄工場、石油プラントなどのオーナーは、施設を保有している企業ですが、それらを建設しているのはエンジニアリング会社や建設業界の企業です。こうした企業では多くの部材の発注や、さまざまな業者の出入りがあるのです。
西村:エコシステムプレーヤー全体に広げていくということですね。
北村:我々のお客様の裾野は非常に広いのです。これまでピラミッドの頂点部分をターゲットにしてきましたが、ピラミッド全体に影響を与えることができれば、当社の事業も成長しますし、産業全体にプラスの影響をもたらせるのではないかと考えています。これをしっかり実現したいと思っています。
西村:施設のオーナー企業を起点にして、サプライチェーン全体にソリューションを提供していくということですね。
北村:そうですね。それが私たちの事業の中心だと思っています。海外展開もありますが、日本の社会課題を根本的に解決したいという思いが強いので、そこはぶれずに進めていきたいと考えています。
西村:ありがとうございます。