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[対談]株式会社RevComm×一般社団法人日本経済団体連合会 スタートアップと大企業の連携で、日本経済にイノベーションを起こす

[対談]株式会社RevComm×一般社団法人日本経済団体連合会 スタートアップと大企業の連携で、日本経済にイノベーションを起こす トップイメージ

株式会社RevCommは、音声解析AI「MiiTel」を提供し、電話・Web会議・対面で行われる全てのビジネスコミュニケーションを解析・可視化することで、コミュニケーションの質と生産性向上を支援するスタートアップです。同社は2024年10月に一般社団法人日本経済団体連合会に入会し、目覚ましい成長を遂げています。今回は、株式会社RevComm會田武史代表取締役と経団連、産業技術本部上席主幹・弁理士の近藤秀怜氏に、同社の入会の経緯やスタートアップの可能性、日本経済の未来について、東京コンソーシアム・ディープエコシステムの西村晋氏を進行役としてお話を伺いました。

會田 武史[写真右](株式会社RevComm)
近藤 秀怜[写真左](一般社団法人日本経済団体連合会)
聞き手・進行:西村 晋(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)
(敬称略)

※「ディープ・エコシステム」は、海外展開を視野に入れ、今後急成長が見込まれるスタートアップを選抜した上で、集中的に支援し、ユニコーン級への成長を後押しする東京コンソーシアム独自の取組です。選定された企業様に対して、国内のみならず海外展開を視野に入れ、東京コンソーシアム会員をはじめとし、国内外の事業会社・ベンチャーキャピタル・機関投資家など、東京コンソーシアムの集積とネットワークを生かした多様なメンバーによる支援を実施しています。

●日本経済の効率と生産性を高めるための創業

西村:株式会社RevCommをどのような経緯で創業されたのか、お聞かせいただけますか?

會田:そうですね、一番の動機は「日本の生産性向上」です。私は前職で三菱商事に在籍し、世界各国でビジネスを経験してきました。その中で、日本の生産性がG7で最も低いという事実が、感覚的に理解できませんでした。本当にそんなに低いのかと。

生産性を分解すると、私は「能率×効率」だと考えています。日本人は教育水準が高く、倫理観も優れているため、一定の能率は担保されている。一方で、効率が悪いことが課題だと感じました。たとえ能率が高くても、効率が低ければ、生産性は下がってしまいます。

効率が悪い要因はさまざまですが、その一つが高いコミュニケーションコストだと思います。私自身、「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が重視される場面に何度も直面しました。このコミュニケーションコストを下げれば、日本の効率は大きく向上し、能率の高さと相まって生産性が飛躍的に向上すると考えました。

そうした思いから、日本の生産性を高めるために、コミュニケーションコストを下げる事業を立ち上げようと考えたのが、株式会社RevComm創業のきっかけです。

會田 武史(株式会社RevComm)対談様子1

●音声コミュニケーションを最適化する

西村:御社の事業の特徴と強みについてお聞かせください。

會田:私たちの事業の核は音声AIです。先ほどもお話ししたように、私たちはコミュニケーションコストを下げることを目的としたサービスを展開しています。

なぜコミュニケーションコストが高くなってしまうのか。それは、音声コミュニケーションがブラックボックス化されているからです。対面、電話、Web会議など、あらゆる場面で音声コミュニケーションが発生しますが、そのやりとりは基本的に当事者間で完結し、外部から見えない状態になっています。これをAIで解析・可視化することで、コミュニケーションを最適化し、生産性向上につなげるのが私たちの事業の特徴です。

短期的にはPL(損益計算書)インパクト、つまり企業の利益向上に貢献しますが、それだけではありません。もう一つの大きな価値として、中長期的なBS(貸借対照表)インパクト、つまり企業の資産形成にも寄与できると考えています。

音声データは企業にとって極めて重要なアセットですが、これまでほとんど活用されてきませんでした。AI時代において、AIの価値を決める根源はデータです。企業が持つデータは大きく音声・テキスト・画像の3種類に分類されますが、テキストや画像はすでにビッグデータ化されている一方で、音声データはほぼ蓄積されてこなかったのが現状です。

私たちは、これを企業の資産として活用可能な形に変えることを目指しています。おそらく10年以内に、「データ」という新たな会計項目が生まれ、有意義なデータを大量に保有することが、企業価値そのものを左右する時代が来るでしょう。音声データを資産化し、それを新たなキャッシュフロー創出につなげる。この短期的なPLインパクトと中長期的なBSインパクトを同時にもたらすのが、私たち株式会社RevCommの事業の特徴です。

西村:録音ファイルを文字起こしするのと、御社のサービスのように音声をアセットとして蓄積していくことの違いはどこにあるのでしょうか?

會田:録音ファイルと我々が扱う音声データは、一見似ているようで、本質的には全く異なるものです。録音ファイルというのは、例えばボイスレコーダーで録音し、それを文字起こしエンジンにかけてテキスト化するものです。これは単なる録音ファイルや文字起こしデータに過ぎません。しかし、それだけでは意味を持たないのです。

重要なのは、データに意味を持たせること=タグ付けです。つまり、「いつ」「誰が」「何を」「どのように話し」「その結果どうなったのか」といった情報が、整理された状態で紐づいて保存されていることが重要になります。

そのためには、例えば電話の場合、単に録音するのではなく電話システム自体を設計し直す必要があるのです。なぜなら、一般的な電話の録音はモノラルで一本化されてしまうため、「誰が話したのか」が判別しづらい。また、CRM(顧客管理システム)の情報と紐づいていないため、「何月何日、何時何分に、誰と、どのような会話をしたのか」がデータとして整理されません。

弊社のサービスは、こうした課題を解決するために電話そのもののシステムから構築しており、音声データを構造化された情報資産として活用できるようにしています。これが、従来の録音・文字起こしサービスとの大きな違いです。

會田 武史(株式会社RevComm)対談様子2

●スタートアップこそがイノベーションを生み出す最も優れた仕組み

西村:経団連様はスタートアップ支援に積極的に取り組んでいるように見受けられますが、その背景にはどのような考えがあるのでしょうか?

近藤:経団連は一般的に「大企業の集まり」と見られがちですが、大きな転換点がありました。それが2018年に中西宏明氏(日立製作所 元会長)が会長に就任したタイミングです。

中西さんは欧州や米国でのご経験があり、日本の経済の活力を取り戻すためにはスタートアップの成長が不可欠だと考えていました。その思いから、2019年に「スタートアップ委員会」を設立し、スタートアップ支援を本格化させました。

また、経団連自体も次世代の経済を担うスタートアップの視点を取り入れるべきだという意識が強まり、スタートアップ会員の拡大を推進し、現在、約1500社の会員企業のうち、100社以上がスタートアップとなっています。

さらにもう一つの大きな転機が、南場智子氏(株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長)がスタートアップ委員会の委員長に就任したことです。南場さんのもとで「スタートアップ躍進ビジョン」を策定しました。その根底には「スタートアップこそがイノベーションを生み出す最も優れた仕組みである」という考えがあります。このビジョンを日本に定着させるためにも、経団連として旗を振り、スタートアップ支援を加速させる必要があると考えています。

※1 「スタートアップ躍進ビジョン」とは、日本国内でスタートアップの裾野が飛躍的に広がり、同時に世界的な成功を収めるスタートアップが数多く生まれ出るためのエコシステムの実現を目指し、企業の規模・歴史、産学官といった立場を超越した視点で取りまとめた提言。(ウェブサイト:経団連:スタートアップ躍進ビジョン (2022-03-15)

西村:「スタートアップ躍進ビジョン」は2022年に発表されましたが、具体的にはどのような支援策を展開されているのでしょうか?

近藤:私たちは3つの柱を軸に活動しています。1つ目は、政策提言とその反映です。躍進ビジョンで掲げた施策を実際の政策に落とし込み、具体的な形で実現させるための働きかけを行っています。

2つ目は、大企業とスタートアップの連携促進です。これはスタートアップ委員会発足当初から継続している取り組みで、「Keidanren Innovation Crossing(KIX)」というピッチ・ネットワークイベント運営しています。この特徴は、経団連側(大企業側)の参加者を、意思決定権を持つ部長級以上に限定している点です。これにより、スタートアップが直接、意思決定層と対話できる場を提供し、実効性の高い連携を促しています。この仕組みは、スタートアップの皆さんからも高く評価されています。

3つ目は、大企業の行動変容の促進です。日本経済において大企業の存在感は依然として大きく、そのアセットをいかにスタートアップに活用してもらうかが重要な課題です。そのために、「スタートアップフレンドリースコアリング」という仕組みを導入しました。これは、大企業がどれだけスタートアップにアセットを提供できているか、どれだけスタートアップの技術やアイデアを取り込めているか、エコシステムにどれだけ貢献しているかといった指標をもとにスコアを付与し、参加企業を公表するものです。これにより、大企業のスタートアップ支援の取り組みを可視化し、さらなる行動変容を促しています。

近藤 秀怜(一般社団法人日本経済団体連合会)対談様子1

●スタートアップの成長と量:「10X10X」の“高さ”を伸ばさなければいけない

西村:「スタートアップ躍進ビジョン」の提言から3年が経ちました。近藤様はこの2022年からの3年間についてどのように評価されていますか?

近藤:躍進ビジョンの中で掲げた目標に「10X10X」というものがあります。これは、日本のスタートアップの数を10倍にし、成功レベルも10倍にするというもので、5年間での達成を目指しています。現在、その折り返し地点に差し掛かっています。

この3年間でスタートアップの裾野は確実に広がっており、数としても増加しています。ただ、まだ10倍には達しておらず、特に成功の「高さ」をどう伸ばしていくかが大きな課題になっています。IPOの規模が小粒になりがちで、大型のスタートアップがなかなか育ちにくいという指摘もあります。

この「高さ」を伸ばす鍵として、AIを含むディープテック領域の活性化が重要だと考えています。そのため、昨年9月には「Science to Startup」という、大学発のディープテック・スタートアップに特化した提言を発表しました。日本の大学では世界水準の研究もまだ数多く行われており、今後、この分野への注力が不可欠だと考えています。また、政府も私たちの提言を積極的に受け止め、スタートアップ支援に関する施策を横断的に展開してくれています。政権が変わった現在も、この取り組みを後退させることなく、引き続き推進してほしいと強く願っていまし、経団連としても働きかけていきます。

※2 「Science to Startup」とは、提言「スタートアップ躍進ビジョン」(2022年3月15日)において、27年までにスタートアップの数・成功のレベルを共に10倍にするという目標「10X10X」を掲げた。政府と同目標を共有してから約2年が経過し、政府施策の後押しも受けてスタートアップの数は着実に拡大傾向にある。しかし、ユニコーンの増加には至っておらず、さらなる打ち手のために、成功レベルの引き上げに向けて、経団連が日本の強みである優れた研究や技術に着目し、同提言を取りまとめたものである。 (ウェブサイト:経団連:Science to Startup (2024-09-17)

西村:會田様にもぜひお伺いしたいのですが、2022年に経団連様が「スタートアップ躍進ビジョン」を発表し、その後、岸田総理が「スタートアップ育成5カ年計画」を打ち出すなど、この3年間で「スタートアップ」という言葉を耳にする機会が格段に増えた印象があります。この3年間を振り返って、それ以前と比べて何か変化を感じることはありますか?

※3 「スタートアップ育成5カ年計画」とは、2022年11月28日の第13回新しい資本主義実現会議において策定された計画で、政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置付け、日本国内のスタートアップを大幅に増やすための戦略とロードマップを提示した。本計画により、2027年までにスタートアップへの投資額が10倍以上になるほか、将来的には10万社の創出が予定されている。(参照資料:スタートアップ育成5か年計画

會田:経団連様の枠組みに参加させていただいていることもそうですが、大企業との対話の機会が増え、スタートアップに対する門戸が広がっていると実感しています。ただ、「10X10X」の目標について考えると、特に「縦の10」、つまりスタートアップの成長スピードや規模の拡大が圧倒的に足りていないと感じます。

正直なところ、日本経済全体のインパクトを考えると、スタートアップの数が増える(横の10)だけでは、大きな変化をもたらすのは難しい。本当に必要なのは、スケールの大きな企業を生み出し、成長させることです。

例えば、諸外国では、すでに成長している企業に対してさらに国の資金を投入し、規模を拡大させる支援を行っています。一方で、日本の政策はアーリーステージの支援が中心になっていて、グロースステージに入ると「もう十分成長したから支援は必要ないですよね?」と、いきなり突き放されることが多いのです。

しかし、日本のGDPは500兆円を超える規模があるわけですから、「デカコーン」(1兆円規模の企業)を10社以上創出するくらいの戦略がないと、経済に対するインパクトは小さい。そのためにも、グロースステージのスタートアップに対する支援をもっと重点的に強化していくことが重要だと考えています。「どうやってスケールの大きな企業を生み出し、世界で戦える存在にしていくのか?」――これが、今後の日本のスタートアップ支援の最大の課題ではないでしょうか。

西村:御社のようなスタートアップにとって、「こういう支援があればデカコーンを目指しやすくなるのに」と思う具体的な支援策のイメージはありますか?

會田:個社としてではなく、全体の話としてお伝えしたいのですが、一つの大きな可能性として公共調達の活用が挙げられると思います。例えば、東京都の年間予算は16兆円あります。つまり、東京都だけで年間16兆円分の公共調達が行われているわけです。仮にこのうち10%(1.6兆円)をスタートアップに振り分けたらどうなるかという話です。

現在のIPO企業の売上高に対する企業価値の倍率は3~5倍程度です。これを適用すると、単純計算で企業価値5兆~10兆円規模相当になります。つまり、たった1年でデカコーンを数社・ユニコーンを数十社生む可能性があるということです。さらに、これを国や自治体全体に広げると、100兆円規模のインパクトを生むことも十分に可能です。それがレバレッジをかけるということだと思うのです。こうした取り組みが進めば、現在問題視されているデジタル赤字も一定軽減しつつ日本全体が飛躍的に成長するのではないでしょうか。

近藤:スタートアップ躍進ビジョンの中でも、公共調達の拡大について言及しています。現在、スタートアップへの調達目標は3%と設定されていますが、これを10%に引き上げるよう躍進ビジョンでは求めています。これが実現すれば、非常に大きなインパクトとなるはずです。

會田様がおっしゃる通り、東京都単独でも効果は大きいですし、「ある自治体で調達したものを、別の自治体でも活用する」といった横断的な仕組みが作れれば、スタートアップへの資金流入がさらに加速するのではないでしょうか。

會田:日本には約1,700の自治体があります。たとえば弊社は東京都で4年以上に渡り、導入いただいています。「東京都で採用されているソリューションを、全国の自治体にも展開する」といった流れができれば、ものすごいインパクトが生まれると肌感覚で強く思っています。

特に、自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)はまだ遅れている部分も多いため、そこに対してスタートアップが貢献できる余地は非常に大きい。自治体の住民にとってもメリットがあり、自治体自体も恩恵を受ける。さらに、スタートアップの成長につながり、それを支える投資家も喜ぶ。まさに、「四方良し」の仕組みを作ることができるのではないかと考えています。

西村:確かにそうですね。東京コンソーシアム事務局としても、東京都での導入を促進しつつ、他の自治体へと横展開していく役割をしっかり担うべきだと改めて認識しました。

聞き手・進行:西村 晋(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム)対談様子1

●オポチュニティ(機会)を活かせるかどうか

西村:さて、お話を少し戻して、御社が経団連様に入会された経緯や背景についてお聞かせいただけますか?

會田:一番大きな理由は、社会的信用を得るためですね。私たちは大企業との取引が増えている一方で、まだパブリックエクイティ(IPO企業)にはなっていません。「IPOしているかどうか」が一つの判断基準になりがちです。しかし、本来、上場しているかどうかが企業の実力を示すわけではないと思います。

そんな中で、「経団連参加企業です」と言えることは、大きなお墨付きになります。これにより、大企業との取引がしやすくなり、対話の機会も増えます。また、経済会合でも話を聞いてもらいやすくなり、ビジネスの信頼性が高まる。実際に、「君の会社は、経団連に入っているの?」と聞かれ、「はい、お世話になっています」と答えられることで、関係構築の良いきっかけになっていると感じます。

西村:まさに経団連様のアセットを有効活用されていますね。社会的信用の不足に苦しんでいるスタートアップは多いので、経団連様との関係は非常に親和性があると感じます。

會田:大企業とのつながりが増えるのはもちろんですが、私自身も委員会を積極的に活用しています。例えば、先日参加したインドネシア委員会では、私の古巣である三菱商事・会長の垣内威彦会長が委員長を務めていらっしゃって、その場で、インドネシア政府に対して直接提言できる機会があったのです。

弊社はインドネシアにも展開しているのですが、日本では7年前に政府が「クラウド・バイ・デフォルト原則」を宣言し、公共調達の際にはクラウドを活用する方針を打ち出しました。すると、それをきっかけに大企業や銀行までもが一斉にクラウドへシフトしました。この成功モデルを参考に、「インドネシアでもクラウド・バイ・デフォルトを導入してはどうか?」と、インドネシア政府に直接意見を伝えることができました。それも、垣内さんの横で。

※4「クラウド・バイ・デフォルト原則」とは、2018年6月に政府が発表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」に明記されており、「政府情報システムの構築・整備に関しては、クラウドサービスの利用を第1候補(デフォルト)として考える」という方針を指す。(参照資料:「デジタル社会推進標準ガイドライン DS-310 政府情報システムにおける クラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」)

普通なら、「なんだ、あの若造は?」と思われる場面かもしれませんが、それでもちゃんと話を聞いてもらえますし、「それは面白いね」と議論が生まれる。こうした提言の「場」自体が、これまでスタートアップにはほとんどなかったのです。しかし、経団連様の委員会を活用すれば、その「場」=オポチュニティ(機会)がある。

結局、こうした機会を活かせるかどうかはスタートアップ次第です。門戸は開かれているので、あとはどれだけ積極的に活用できるかが鍵になると思います。

[対談]株式会社RevComm×一般社団法人日本経済団体連合会の対談風景

●大企業とスタートアップの連携から生まれるイノベーションに期待

西村:ここからは未来についてお話を伺いたいと思います。まず、會田様にお聞きしたいのですが、日本のスタートアップがさらに成長していくために、経団連様に期待することはありますか? 

會田:大企業とスタートアップの融合をさらに後押しするような取り組みを進めていただけると、非常に大きな意味があると思います。根本的な課題として、情報の非対称性が存在しています。スタートアップと大企業の間で、お互いの強みや可能性を十分に理解しきれていないケースが多いのです。

例えば、経団連様がハブとなってマッチングの場を提供する、あるいは直接ハブにならなくても、「スタートアップと大企業がどのような取り組みを行い、どのようなイノベーションが生まれ、それがどのような経済インパクトをもたらしたか」といった事例を積極的に発信していく。

こうした成功事例が可視化され、「こんな成功事例があるなら、うちの会社もスタートアップと組んでみよう」と思う企業が増えれば、スタートアップとの連携が加速し、新たなイノベーションが次々と生まれる流れができると思います。

そうなれば、少し突飛な話かもしれませんが、「風が吹けば桶屋が儲かる」のような連鎖で、M&Aがもっと活性化するのではないかと考えています。

例えば、適切な服装をする、正しい名刺交換の仕方をする、事前に入社年次や出身地等を調べておいてそれに絡めた世間話をする――こうした細かい所作ができると、話をスムーズに進め易くなったりします。    

そうした「大企業の文化」を学び、適応する場として、経団連での大企業との交流が機能していると感じています。スタートアップと大企業では、使っている言語や文化が大きく異なりますが、こうした場を通じてその壁が溶けていけば、大企業側は「スタートアップも意外といいやつらだな」と感じ、スタートアップ側も大企業の論理や所作を理解しやすくなる。

結果として、「一緒にやろうか」と自然に協業が生まれやすくなり、さらにM&Aが行われた際にも、スタートアップ側が大企業のプロトコルを理解していることで、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)もうまく進む。

これがうまく機能すれば、「なんとなくM&Aしたけれど、うまくいかなかった…」といったケースも減り、M&A市場自体がより活性化するのではないでしょうか。

西村:今の會田様のコメントについて、近藤様はどう感じますか?

近藤:ちょうど私もM&Aについて触れなければと思っていたところでした。ここ10年ほどでCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の活動は活性化し、投資額も積み上がってきています。しかし、スコアリングの取り組みを通じて感じるのは、大企業とスタートアップの連携がまだ表面的なものに留まっているケースが多いということです。

具体的には、各企業が本業の中でスタートアップの技術やサービスを活用するレベルには、まだ十分に至っていないと感じます。これは先ほどの公共調達の話とも通じるものがありますが、民間企業の調達もまだ不十分な部分が多いのです。

例えば、「ベンチャークライアントモデル」のように、早期にスタートアップの技術を試し、スピーディに採用していく仕組みが、もっと大企業の中に普及していくことが重要です。その先には、より実質的な連携が進み、最終的にはM&Aが自然に増えていく未来が待っているのではないかと考えています。

だからこそ、経団連としても、大企業の本業とスタートアップをしっかりつなげる支援を推進していきたいと思っています。

會田:それは本当にいいですよね。例えば、第一生命さんの「ベネフィット・ワン」のような取り組みが増えれば、ものすごく良い影響が広がると思います。また、ビスリーチ創業者の南さん(南壮一郎氏)が、現在丸紅の社外取締役に就任したりと、最近はスタートアップの起業家が大企業の社外取締役に入るケースも増えてきています。

※5 「ベネフィット・ワン」とは、グルメ・レジャー・ショッピングに加え、eラーニングなどの学習コンテンツ、育児・介護、引っ越しなどライフイベントに関わるものまで、140万件以上のサービスを優待価格で利用できる総合福利厚生サービス。導入企業は約16,000団体、会員数は約1,100万人(2024年4月時点)。 従業員満足度の向上や健康経営、スキルアップの促進支援メニューを展開。第一生命ホールディングスにより、企業の福利厚生を代行するサービスを手がけるベネフィット・ワンを完全子会社したことで、第一生命が持つ生命保険とベネフィット・ワンが持つ福利厚生のプラットフォームに、力を入れていきたい医療・健康領域を組み合わせたサービスとなった。(参照資料:ベネフィット・ステーション | 株式会社ベネフィット・ワン「株式会社ベネフィット・ワンの完全子会社化について」)

スタートアップの起業家は、大企業の経営に対して遠慮せずに率直な意見を述べることができる。そうしたスタンスが大企業にも新しい視点をもたらし、結果としてより実のある協業やM&Aの成功確率を高めていくのではないかと感じています。

會田 武史(株式会社RevComm)対談様子3

●向こう見ずに“身の丈以上”の挑戦をし続ける

西村:會田様は、日本の国際的な競争力を高めるうえで、スタートアップはどのような役割を担うべきだと考えますか?

會田:外貨を稼ぐことです。最大の課題は、ソフトウェアやテクノロジー分野で外貨を稼げていないこと。無形商材、特にソフトウェアは粗利率が高く、キャッシュフローを生みやすい。その結果、企業価値も高まりやすく、より大きなレバレッジをかけることができる。しかし、日本はここで遅れを取っているのが現状です。

この課題を克服するために、とにかく海外へ出ていくことが不可欠だと思っています。もちろん、計画をしっかり立てることも重要ですが、同時にある種の「向こう見ずさ」も必要だと感じています。慎重になりすぎず、「Go Bold」の精神でどんどん海外に挑戦していこう——そんなマインドセットが、日本のスタートアップにも求められているのではないでしょうか。

西村:競争力を高めるために、御社としては今後どのような取り組みを進めていきたいとお考えですか?

會田:現在、インドネシアとアメリカに展開していますが、重要なのは「身の丈以上の挑戦をし続けること」だと思っています。これまで日本経済を牽引してきた大企業も、同じようにリスクを取り、果敢に挑戦することで成長してきた。スタートアップである私たちも、その精神を持ち続けるべきだと考えています。

具体的には、インドネシアだけでなく、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピンといった東南アジア市場へも展開を拡大し、北米もアメリカにとどまらず、より広い地域へ進出していく。そして、各国ごとの売上・キャッシュフローを最大化し、エンタープライズバリュー(企業価値)へと反映させることが重要です。

現在、日本市場からの売上が大半を占めており、世界のGDP比で見るとこれは構造的にいびつな状態です。今後は、売上の半分以上をグローバル市場で稼ぐ体制を築くことが、弊社にとって最も重要なミッションだと考えています。

●やりきらなければ、どんな戦略も意味をなさない

西村:會田様ご自身の言葉で改めて強調しておきたいことはありますか?

會田:気合と根性です。結局、最後にものを言うのは、絶対に諦めないという覚悟ではないかと思います。課題はすでに見えているし、それに対するアプローチもある程度見えている。あとは「やりきるかどうか」に尽きます。やりきらなければ、どんな戦略も意味をなしません。

これはスタートアップだけの話ではなく、大企業も、それを見守る経団連様や日本政府も、全員が「やりきる」覚悟を持つことが求められていると思います。もしこの覚悟がなければ、日本はただ衰退していくだけ。そうならないためにも、今こそ「やりきる」気概と行動が問われているのではないでしょうか。

西村:「やりきる」。まさに、私たちの世代が頑張らなければいけませんね。近藤様も、ここまでの議論を通して改めて感じたことや、伝えたいメッセージがあればお願いします。

近藤:まず、経団連を積極的に活用していただけていることに、心から感謝しています。そして、會田様のように経団連の仕組みをうまく活用し、成長の機会にしてほしいと、他のスタートアップの方々にも思っています。

私たちは、スタートアップの皆様が大企業とつながり、新たなチャンスを生み出せるよう、そうした機会を提供し続けることが使命です。ぜひ、多くの方にこの場を活かしていただきたいですね。

近藤 秀怜(一般社団法人日本経済団体連合会)対談様子2

西村:では最後に、東京コンソーシアムへの応募を検討されている方々へ、會田様からメッセージをお願いします。

會田:やっぱり気合と根性ですかね(笑)。半分冗談だとして、でも結局、大事なのは、「いかに世の中の役に立つか」ということ。そのためには、信用が何よりも重要だと思っています。

ビジネスは信用経済で成り立っています。だからこそ、東京コンソーシアムや経団連様のような第三者機関や支援団体から応援される存在になることが大切なのです。ただ、それは結果論でしかなくて、まずは自分たちの事業に本気で向き合い、社会に貢献することが先にあります。その姿勢があるからこそ、周りの応援者が増えていく。

そして、オポチュニティ(機会)をどう活かすかも重要です。せっかくチャンスがあるのなら、それを掴みにいくかどうか。支援を頂きながら、みんなで一緒に大きな成長を目指していきたいですね。