ACTIVITY/EVENT

グリーンスタートアップ支援活動紹介 成果事例

[インタビュー]ロボティクスを手段に、社会の課題解決に挑む

[インタビュー]ロボティクスを手段に、社会の課題解決に挑む

株式会社アイ・ロボティクスは、ドローンやロボットを活用し、点検・測量・災害対応などの業務を支援するロボティクスソリューション企業です。本対談では、東京コンソーシアムのグリーンスタートアップ支援で同社を担当する齋藤英里氏が、伴走者の立場から安藤嘉康代表取締役に、同社の強みや事業の原点を伺いました。

安藤 嘉康[写真左](株式会社アイ・ロボティクス)
聞き手・進行:齋藤 英里[写真右](東京コンソーシアム グリーンスタートアップ支援担当)
(敬称略)

※「グリーンスタートアップ支援」は、海外展開を視野に入れ、今後急成長が見込まれるスタートアップを選抜の上で集中的に支援し、スタートアップの目標達成を後押しする東京コンソーシアム独自の取組です。選定された企業に対して、国内のみならず海外展開を視野に入れ、東京コンソーシアム会員をはじめとし、国内外のベンチャーキャピタル・機関投資家など、東京コンソーシアムの集積とネットワークを生かした多様なメンバーによる支援を実施しています。

●「誰も入れない場所」に挑んだ原点

齋藤:まずは創業の経緯をご紹介いただけますか?

安藤:2011年の原発事故で、人が立ち入れなくなった施設がありました。その内部調査や除染作業のためのロボット開発に携わる機会があり、そこでは「誰も状況がわからない=誰もやったことがない」という環境で、ゼロからものをつくり、実際に現場で運用できるようにしなければならないという、非常にチャレンジングなプロジェクトでした。

そこでは、通信技術やICT、IoTといった分野の最前線の知見、さらにはハード・ソフトを問わず、あらゆる技術を組み合わせながら、とにかくトライアンドエラーを繰り返すしかないという状況だったのです。そうした中で生まれた技術は、実は他の産業分野にも応用可能であり、社会的な課題の解決にもつながるポテンシャルを持っていると気づきました。

そこで「インダストリアル・ロボティクス勉強会」という活動を立ち上げ、産業応用を見据えた技術の議論や実践を進めていったのですが、その過程で明らかになったのは、実際に現場で動ける“プレイヤー”がほとんど存在しないという現実でした。ならば、自分たちでプレイヤーを育て、役割を担おう——。そうした思いから、勉強会での活動を母体に、2016年に法人化したのが株式会社アイ・ロボティクスです。

●労働力不足・老朽化・安全性。社会課題に挑む3つの軸

齋藤:御社が、どういった課題を抱えるお客様に、どのようなソリューションを提供されているのか、改めてお聞かせいただけますか?

安藤:当社が取り組んでいるのは、大きく3つの課題です。1つ目が「労働人口の減少」、2つ目が「施設の老朽化」、そして3つ目が「本質的安全の確保」です。

まず1つ目の「労働人口の減少」については、少子高齢化が進む中で、ベテラン技術者が次々と引退し、若手の担い手が不足している現状があります。特に高度な技術を要する現場では、技術継承が進まず、作業そのものが立ち行かなくなってきています。

次に2つ目の「施設の老朽化」。インフラ、プラント、商業施設など、さまざまな施設で老朽化が進む一方で、それを維持・補修する人材が圧倒的に足りていません。特に足場を組む鳶職のような職種でも高齢化が進み、後継者不足が深刻です。1つ目の課題と密接に関係しており、現場の維持管理そのものが困難になりつつあります。

そして3つ目が「本質的安全の確保」です。たとえば足場の崩落事故などは、自然災害だけでなく、技術継承が十分に行われていないことも一因になっていると考えています。そもそも、人が高所に登らなければ、そうした事故自体が起きないのではないか。そうした視点から、地上にいながら点検や補修作業ができる技術の必要性が高まっていると感じています。

「機械化施工」の重要性は以前から指摘されてきましたが、それを実現できるプレイヤーがほとんどいないのが実情でした。だからこそ、私たちがその役割を担い、これら3つの課題の解決を軸に技術開発を進めているのです。

●「ドローンは手段」。目的から逆算する技術集団

齋藤:御社の特徴である「ドローンは手段である」という点を、ぜひ伝えたいと考えています。御社のスタンスについてご説明いただけますか?

安藤:よく「ドローンの会社ですか?」と聞かれるのですが、実際にはドローンは“手段”のひとつにすぎません。大事なのは「何を解決したいのか」という“目的”です。その目的を達成するために、最適な技術や仕組みを選んでいく――そこが出発点になります。

たとえば「構造物の内部を点検したい」といっても、求める情報の種類や精度によって使う技術は変わります。レントゲンのような方法がいいのか、電磁波を使うのか、超高精細カメラで十分なのか。そして、対象にどうやって近づくのか。人が行けるのか、足場を組むのか、それも難しいからこそロボットが必要なのか。

私たちが使う“ドローン”も、飛ぶタイプだけではありません。地上を走るもの、壁を登るもの、水中を潜るものまで、さまざまな機体を使い分けています。現場ごとに最適な組み合わせを考え、目的から“逆算”して仕組みを構築していく。これは、原発事故対応で培われた考え方でもあります。どのような過酷な現場でも「課題起点で技術を組み合わせる」。その姿勢が、今の事業にも息づいています。

つまり、私たちは「ドローンをつくって売る会社」ではありません。課題の本質を見極め、「どうすれば解決できるか」を一緒に考え、コンサルティングから設計、開発、実装、運用までを一気通貫で担う。そこが、他社との大きな違いだと思います。

●モノからではなく課題から。“ソリューション起点”の発想

齋藤:ご支援していた際に感じたのですが、他社は「モノありき」で話を進めることが多い中で、御社は「ソリューション起点」で展開されているという印象がありました。

安藤:そうですね。多くの企業さんは、どうしても「モノありき」で進めてしまうところがあると思います。たとえば「このドローンをどう使うか」という発想ですね。でも私たちは逆で、「どんな課題を解決したいのか」から考えます。その上で最適な手段を設計していく。これが“ソリューションベース”の考え方です。

私たちが向き合っているのは、「労働人口の減少」「施設の老朽化」「本質的安全の確保」という3つの大きな社会課題です。これらを軸に、機械化・遠隔化・自動化、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入を組み合わせながら、現場の生産性と安全性を両立させています。

たとえば、ダウンタイム(作業停止時間)をどう短くするか、トータルの保有コスト(トータル コスト オブ オーナー シップ)をどう下げるか、少ない人員でどう安全に回すか。こうした複合的なニーズに対して、単にロボットを導入するだけでは不十分です。現場のデータを解析し、差分検知や将来的な検査効率化まで見据えたシステムを構築していく必要があります。

だからこそ私たちは、“逆算”の発想で、必要な機体や仕組みを自分たちで開発し、設計から運用、制度設計の支援までを一気通貫で取り組んでいます。モノを売るのではなく、課題を解決する。そこにこそ、アイ・ロボティクスの存在意義があると思っています。

●「誰もできない」を解く、現場の駆け込み寺

齋藤:実際に企業からご相談を受ける際は、どんな経緯でお話が始まることが多いですか?

安藤:いろいろなケースがありますが、私たち自身、「駆け込み寺」のような存在になってきていると感じています。他社に相談しても実現できなかった企業が、最終的に当社に声をかけてくださる、という流れが増えてきました。

それは、これまでさまざまな課題に対して真剣に取り組み、実績を重ねてきたからこそ。「あそこでこんなことをやっていたらしいよ」という話が、業界内の集まりやネットワークを通じて自然と広がり、それを聞いた企業さんから連絡をいただく、ということがよくあります。つまり、「誰もやったことがない“ゼロイチ”の領域」「今はできないと思われていることを、なんとかして実現させる」という領域で頼っていただけるケースが多いです。

例えば、そこの壁に飾ってある感謝状の案件、八潮市で発生した道路陥没対応も、まさに「駆け込み寺案件」でした。実はそれ以前に複数の事業者さんが現場に入っていたのですが、なかなかうまくいかないという課題がありました。

齋藤:うまくいかないというのは、なかなか難しい環境だったのでしょうね。

安藤:さまざまな状況の要因があったようですが、いずれにせよ「必要なデータが取れなかった」というのが問題でした。そこで当社に依頼が来て、現地をしっかり調査し、1週間程度で計画を立案。「この条件なら2回のフライトで必要なデータが取得できる」と判断し、実際にその通りに作業を行いました。1回あたりのフライト時間はわずか3分程度。それだけで目的のデータが取れました。

この現場には貯水ピット(水を一時的にためる設備)があり、大量の水が流れていて、その影響で対象を引き上げられないという課題がありました。そこで、地上から約8メートル下の地点まで機体を下ろして飛行させ、ピット内部の3D地形データを取得。そのデータをもとに、排水のバイパスルートを設計・施工し、目的達成に貢献できたという流れです。私たちは現場を見て目的を正確に捉え、最適な方法を計画・実行する。そんな姿勢が、駆け込み寺として頼られる理由なのかもしれません。

●共創から生まれる実証と展開。JR東日本との協働事例

齋藤:東京コンソーシアムでも御社の活動をご支援させていただきましたが、たとえばJR東日本スタートアップさんをご紹介した件はいかがでしたか?

安藤:いろいろとご配慮いただいたうえで、当社としてもチャレンジングな取り組みを経験させていただき、本当にありがたく思っています。東京コンソーシアムからのご紹介をきっかけにJR東日本スタートアッププログラムへ応募し、無事に採択され、さまざまな実証を進めることができました。

JR東日本さんが直面している課題としては、やはり労働人口の減少とインフラの老朽化が大きく、その中でもトンネル内のコンクリートの非破壊検査は喫緊の課題と理解しています。もし事故が起きてしまえば、運行の停止や乗客対応、補償問題など、経営的にも大きな打撃になります。だからこそ、日々の点検が欠かせないのですが、点検は基本的に夜間に人力で行われており、1日に確認できる範囲はごくわずか。全体を5年サイクルで点検することが制度上求められている中で、現場は効率的かつ正確で安全な点検ができる手段を求めていました。

その課題に対して、私たちが提供している高所向けの機械化施工ソリューションを応用できるのではないかということで、共同での検討・実証を進めることになりました。このソリューションは、本来は建物の壁面や屋根の高圧洗浄・塗装のために開発したものですが、構成部品がセパレート化されており、現場環境に応じて柔軟に組み替え可能なのが特徴です。この“共用可能なコア技術”を活かし、トンネル内での非破壊検査が可能なロボットの開発に取り組んだという経緯です。

齋藤:その案件は今も継続中ですか?

安藤:現在は、次のステップに進むかどうかの検討フェーズに入っています。ただし、当社としては、次に向けた準備は着々と進めているところです。現状に応じ、他のプロジェクトへの展開も視野に入れており、並行して体制を整えている状況です。今後も社会的課題の解決に向けて、この技術を柔軟に応用していければと考えています。

●産業ロボティクスの“今”を発信する

齋藤:Tokyo Innovation Base(TIB)で開催された『ロボティクス・スタートアップ最前線』では、業界の第一線で活躍されるスタートアップとしてご登壇いただきました。

安藤:ありがとうございます。あのイベントに参加させていただいた背景としては、やはりドローンのイメージを、産業用途の視点から再定義していく必要があるという問題意識がありました。映像を撮るだけではなく、産業用として活用することで何ができるのか、その可能性を広く知っていただきたかったのです。

単体の技術としてではなく、他のテクノロジーと組み合わせることで、ロボティクスの応用範囲は格段に広がります。そういった“道具の使い方次第で社会課題が解決できる”という視点を、しっかりPRしていかないと、なかなか産業界での認知や実装は進んでいかないだろうという危機感もありました。

そこで、以前グリーンスタートアップ支援に採択されたスタートアップ数社とともに、トークセッションのような形で何かできないかというお話をさせていただき、実現したという経緯です。

齋藤:イベントは集客も大切ですが、開催後に“残るもの”としても価値がありますよね。SNSなどを通じて活動内容が可視化されることで、問い合わせにつながることもあるのでは?

安藤:おっしゃる通りです。イベントそのものがきっかけでお問い合わせが来るケースもありますし、直接のきっかけではなくても、何か別のタイミングで企業の方が当社について調べたときに、そういった取り組みの履歴や情報があると、やはり信頼感につながると思います。実際、TIBで開催したあのイベントをきっかけにコンタクトをいただいたケースもありますし、認知の広がりという意味でも非常に意味のある機会だったと感じています。

●狭隘部点検を革新。撮影から解析までをワンストップで

齋藤:現在、特に力を入れている領域について教えてください。

安藤:現在、注力しているのは狭隘部(きょうあいぶ)点検のパッケージ化です。すでにいくつかのパッケージは完成しており、たとえば360度カメラや4K対応のマイクロドローンを活用した狭隘部の点検では、狭くて、暗くて、汚れもあるような、従来人が立ち入るのが難しかった環境にも対応できるようになっています。

さらに特徴的なのは、撮影から3Dモデル化、データ解析までを一気通貫で提供できる点です。国が主導するi-Constructionやデジタルツイン推進の流れにいち早く対応し、私たちは単なる映像・写真の記録だけでなく、ほぼリアルタイムでの3Dデジタルツイン化を実現しています。

通常、他社ではドローンで映像を撮った後、持ち帰って処理し、1週間ほどかけてモデル化するのが一般的です。ところが、後日になって「撮り漏れがあった」と判明すると、再撮影のためにまた現場に戻る必要がある。私たちはその場でデータを可視化・確認できるため、撮り漏れがなく、撮影・点検の効率が大幅に向上します。

加えて、360度カメラを使うことで、上下左右前後すべての方向を1回の飛行でカバーできます。通常のカメラでは複数回飛ばさなければならないところを一度の飛行で完結できるため、時間・コストの大幅削減が可能です。

たとえば鉄道施設の場合、作業できる時間は終電から始発までのわずか2〜3時間。ある電鉄会社の試算では、1駅の天井裏点検を行うために従来の人による工法だと、1週間駅を閉鎖するか、毎晩足場を組んで天井を一部解体し、作業後に復旧する、という非効率且つお客様にご不便をおかけし、結果として大幅な減収にもつながるという事業運営上クリティカルにな課題が顕在化していました。ところが私たちのシステムでは、たった1日・2時間半で1駅分の天井点検が完了します。そのスピードと確実性は、すでに多くの現場で高く評価され、導入が進んでいます。

私たちのもう一つの強みは、点検後のデータ解析・レポート作成もワンストップで対応できる体制です。社内には、一級建築士、構造物調査の専門家、土木・電気分野の国家資格を有する技術者が在籍しており、現場の事前調査から本番の点検、3Dモデル作成、変状箇所の特定、そして専門的見地からの詳細な報告書作成まで一貫して対応しています。現場の担当者にとっては、「本来自分がやらなければいけない作業に専念できる」という点で非常に好評いただいています。

●“ゼロイチ”開発が次の定常業務をつくる

齋藤:今後の展望について教えてください。

安藤:現在、レギュラー業務として特に多いのが、水道・鉄道・プラント施設の配管や狭隘部の定期点検です。定期点検のニーズが高まる中、基盤事業として確立されつつあります。これまでの実績はインフラやプラント分野が中心でしたが、今後はディベロッパーとの連携による商業施設やまちづくり領域にも広げていく予定です。点検・保守といった技術を、都市開発や地域再生の現場でも活かせるように、すでに複数のプロジェクトが進行中です。

一方で、当社のもう一つの大きな強みが、“ゼロイチ”の技術開発への対応です。誰も取り組んでいない課題に対して、駆け込み寺のようにご相談いただくケースも多く、基礎技術の研究開発から社会実装までを一貫して支援しています。そしてそれらを標準化・パッケージ化し、次のレギュラー業務へと昇華させる。このように、レギュラー業務とゼロイチ開発の両輪で事業を推進している点が、当社ならではの特徴です。

なお現在、近々発表予定の新たな取り組みも進行中です。詳細はまだお伝えできませんが、近々発信ができる見込みですので、どうぞご期待ください。

齋藤:ありがとうございます。発表を楽しみにしております。