東京コンソーシアムは、2023年2月17日(金)に「海外スタートアップと日本企業の連携の在り方」をテーマとしたイベントを渋谷ソラスタコンファレンスにて開催しました。当日は渋谷区の田坂克郎氏、Stripe Japan株式会社の西山真梨氏、Miles Japan株式会社のロン・ドラブキン氏、Trusted株式会社のアビドヴァ・ファリザ氏の4名の方々にご登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。
渋谷区では、エコシステムの構築、実証実装、国際化の3つをテーマにスタートアップの支援に取組んでいます。エコシステムでは、スタートアップが抱えるあらゆる課題に対応するため、課題に応じた部会を作り、大企業を巻き込みながらスタートアップの取組みを支援しています。実証実装については、主にB to Cのビジネスを行うスタートアップを対象に、モニター登録をした渋谷区民へ実証実装の参加を募ることができる仕組みを構築しています。国際化について、多様な海外スタートアップを誘致するため、具体的にはスタートアップ向けの様々な種類のビザの発行や、国際イベントの招致、日本のスタートアップイベントや企業を紹介するメディアの運営等に取組んでいます。更に、SHIBUYA STARTUP SUPPORTを立ち上げ、大企業と連携しながらスタートアップ誘致後の「成長」フェーズでのサポートを行っています。
その中で浮き彫りになった課題として、投資家や自治体、大企業の方々の言語の問題、多様な人材を招聘するためのビザの発行、生活面での十分なサポートが挙げられます。
西山氏がモデレーターを務め、日本企業と海外スタートアップの連携に向けたプロジェクトに携わる立場からファリザ氏、日本進出に成功した海外スタートアップや投資家の立場からドラブキン氏、海外スタートアップの日本進出を支援する立場から田坂氏が、日本企業と海外スタートアップの連携についてパネルディカッションを行いました。
テーマ①:日本企業と海外スタートアップの連携に関する現状と課題
海外スタートアップとの連携における日本企業の現状として、以前から連携を強化している日本企業と、連携したいが何から着手するべきかわからない日本企業の2パターンに大分されます。前者においては、スタートアップへの投資自体は成功しているものの自社全体を巻き込むことができず、結果として海外スタートアップ連携のシナジーを醸成できないまま失敗に終わるケースが多く見られ、後者においては、海外スタートアップについての情報リサーチは十分できているが具体的な行動に踏み出せていないケースが多く見られます。
このように海外スタートアップとの連携が成功していない原因としては、連携する理由やそのメリットについて経営層を中心とした企業全体が十分理解できていないことにあります。大企業特有の縦割り制度により、オープンイノベーション推進部門と経営管理部門の方向性に乖離が生じ、経営管理層がスタートアップとの連携のメリットへの理解や意思決定に時間を要しています。
日本の大企業の組織構造をすぐに変えることは難しいですが、例えばヨーロッパの大企業で見られるように、イノベーション推進チームを完全に切り離して別会社にすることで自由にプロジェクトを動かし、プロジェクトが成功すれば本社で行うという方法を活用することによって、日本の大企業がうまく海外スタートアップとの連携が図れると思います。
テーマ②:海外スタートアップとの連携に向けて、日本企業が理解すべきことや必要なマインドセット
海外スタートアップとの連携やシナジーの醸成に向けて、日本企業はイノベーション推進チームだけに留まらず全社的に取り組んでいく姿勢が求められています。特に経営層が海外スタートアップとの連携に慎重な姿勢を見せる傾向にありますが、イノベーション推進側が経営層に対してスタートアップと連携する理由について論理的に説明を重ねることで全社的な合意を得ることが大事になります。海外大企業のスタートアップ連携における先進事例を踏襲することや、連携やシナジーの醸成に成功している方々に直接連絡を取ることを通して、是非連携を進めてほしいと思います。
また、シリコンバレーにおいて日本人の目的意識の欠如が課題として挙げられています。具体的には、日本人が何を目的としてシリコンバレーに足を運んでいるのかわからないという意見や、情報を入手するだけで何も情報を与えてくれないといった意見が挙げられています。その課題を解決するために、海外のスタートアップと連携する理由について考えを深めるワークショップを開催すること等を通して、日本企業の海外スタートアップ連携に関する目的意識を育成する必要があります。
本イベントのご参加者から、主に以下3つのご質問をいただき、4名のご登壇者にご回答いただきました。
質問①:日本企業が最適な海外のスタートアップを見つける方法について
まずは海外スタートアップと連携する目的を定めた上で、条件を満たすスタートアップを探すことが大切です。ただ、スタートアップへ連絡を試みるものの中々スタートアップから反応をいただけないケースが多くみられます。そのため、プロジェクトの具体的な構想や、それに見合うスタートアップ企業の実績条件の設定、シナジー等について考えを固めたうえで、直接スタートアップにセールスしていく必要があります。また、海外スタートアップと繋がりがある投資家やベンチャーキャピタル、アクセラレーターとのネットワークを活用し、間接的に海外スタートアップにアプローチをする方法も考えられます。
質問②:海外のスタートアップにとっての日本企業の強み
海外のスタートアップが日本企業と連携する上での日本企業の強みとしては、長期的目線を踏まえて考える等といった日本人の持つ国民性が挙げられます。なお、日本企業においても、新しい視点をもつ海外スタートアップ企業と連携することにより、スピーディーかつ効率的に新しいものを生み出すことができるというメリットを享受できます。
質問③;言語の壁等の障壁がある中で、海外スタートアップ企業と連携するメリットを経営層に伝える方法
まず、イノベーション推進部門やリサーチ部門等海外スタートアップと連携を図る部門を中心に英語と日本語が堪能なバイリンガルを配置し、言語の壁を乗り越えることが大切です。そのうえで、経営層のマインドセットを変えるために、各企業の特徴を勘案した方法を見つけ、経営層に論理的に説明をすることが大切です。その際、エコシステムのイベントに参加していただき、多様なステークホルダーの視点から生の意見を得られる場づくりを提供することも有用です。