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ディープ・エコシステム活動紹介 イベントレポート

「ユニコーン級企業創出に向けた機運醸成イベント」 開催レポート

2023年6月2日(金)に東京スクエアガーデンにて開催された「ユニコーン級企業創出に向けた機運醸成イベント」のイベントレポートです。
イベント開催案内は 《こちら》 のページをご覧ください。

1. 概要

スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアムは、2023年6月2日(金)に東京スクエアガーデンにて「ユニコーン級企業創出に向けた機運醸成イベント」を開催しました。当日はアニマルスピリッツ合同会社 代表パートナーの朝倉祐介氏にご登壇いただき、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 代表取締役の斎藤祐馬とスペシャル対談を行いました。その後、お二人に対する質疑応答が行われ、最後は参加者による懇親会が開かれました。

集合写真

2. イベント実施概要

(1)宮坂学 東京都副知事からのご挨拶

開会にあたって東京コンソーシアム会長の宮坂学 東京都副知事から、会場に集まった参加者の皆さまとライブ配信を視聴している方々に向けて、ビデオメッセージが寄せられました。スタートアップは未来の雇用を作る重要なプレーヤーであること、スタートアップがユニコーン級企業へと成長するために、グローバル化や資金調達等の戦略構築を専門チームが支援することなど、スタートアップ支援に対する考えをお話しました。

宮坂学 東京都副知事からのご挨拶

(2)𠮷村恵一 東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室長からのご挨拶

続いて、𠮷村恵一 東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室長から、東京都のスタートアップ戦略についてご説明しました。

東京都は「グローバルに展開する東京都発のユニコーン数」「東京都の起業数」「東京都の協働実践数」それぞれを5年で10倍にするビジョンを掲げています。これを実現するために「4つの柱」(①世界最高にスタートアップフレンドリーな東京にする ②誰もが夢に向かって羽ばたける土壌を作る ③あらゆる関係者が‴ワンチーム‴で強力にサポートする ④世界を視野に戦略的に発信する)を軸にした、様々な取組みを行っています。

国内外からスタートアップに関わる様々な団体が集まり、重点的な支援を提供する一大拠点を構築するという「″Tokyo Innovation Base″構想」に始まり、初動期のスタートアップに対する資金提供の枠組みの構築、グローバル市場への挑戦を後押しするための新たな仕掛けなど、スタートアップ支援の取組みの一部をご紹介しました。

𠮷村恵一 東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室長からのご挨拶

(3)ディープ・エコシステムのご案内

東京コンソーシアム事務局の森本陽介よりディープ・エコシステムについてご案内しました。

東京コンソーシアム事務局の森本陽介

(4)スペシャル対談 朝倉祐介氏×斎藤祐馬

スペシャルゲストとして朝倉氏をお迎えし、モデレーターを務める斎藤との対談が行われました。はじめに、朝倉氏から簡単に自己紹介をいただき、スタートアップ・上場企業経営の経験を生かしてスタートアップに対する投資を行っている朝倉氏の、現在にいたる歩みを振り返ってもらいました。続いて、本題であるスタートアップの話題について語り合っていただきました。以下、抜粋・要約してご紹介します。

ダイバーシティディスカッション

ミドル・レイター期のスタートアップについて

斎藤:ミドル・レイター期のスタートアップを取り巻く現在の環境について、朝倉さんの認識は?

朝倉氏(以下、敬称略):2021年まではスタートアップに対する投資が活発に行われており、海外ではSaaSセクターの企業のマルチプル(※1)が20倍というケースまで見られましたが、2022年にアメリカの利上げが始まってからは、スタートアップを取り巻く投資環境が厳しくなってきています。上場企業であるユーザベースでさえMBOの際にPSR(※2)が1倍程度にとどまったのは厳しい環境を象徴する出来事でした。グローバルのマーケットで戦っている海外のSaaSと、日本のSaaSを同水準で測ることはできませんが、日本の企業はある種、厳しい目で見られてしまっているのが現実です。

※1 企業の価値を測る手法の一つ。資産、利益、キャッシュといった経営指標に適正なマルチプル(倍率)を掛けることで企業価値を算出する。
※2 株価売上高倍率。時価総額を年間売上高で割って算出する。

斎藤:ミドル・レイター期に投資をする際は何を重視しますか?

朝倉:投資家の視点では、事業に本質的な価値があるのか、キャッシュフローをしっかりと生み出せるのかを重視しています。それに加えてミドル・レイター期の企業は経営者や経営陣の資質はもちろん、バランスシートやサイドレターなど、積み重ねてきたものを追加的に見ています。

斎藤:朝倉さんは経営者も経験されていますが、経営者の視点に立つと、イグジッド(出口戦略)はどういった戦略がいいとお考えですか? 例えば上場するにしても少し市況が良くなってからとか、大企業にグループインするのかなど。

朝倉:IPOを主軸に考えたときに、どのタイミングでやるかは会社側でコントロールできない側面もあるためそれぞれの事情によりますが、最初の資金調達からある程度時間が経ってくると既存投資家から早くイグジッドしてほしいという圧力が強まってきます。それに流されてしまうと事業本来の最適なタイミングで上場できなくなるため、能動的に株主を入れかえてプロアクティブにリードするのも必要になりますし、それができる経営チームなのかどうかが、その後の成長の可能性を大きく左右します。

また、働いている社員の方々にとってIPOは大きなマイルストーンであり、ストック・オプションのようなインセンティブは魅力です。しかし、上場の準備期間が長くなりすぎるとチームの気持ちが切れてしまうことが往々にしてあり、経営陣がそれに耐えきれずに上場してしまうようなケースも多々見られます。しかし本来は事業にとって適切なタイミングかどうかが大事であり、経営陣は本質としっかりと向き合っていかなければなりません。

斎藤:“上場ゴール”になってしまう企業と、その後に伸び続ける企業は何が違いますか?

朝倉:日本は小さな規模でも上場しやすいのが特徴ですが、中長期的な視点で投資してくれる機関投資家からはどうしても相手にされません。そのため主な株主層は個人投資家になります。一般的な傾向として、個人投資家は株価のボラティリティを狙って株式を取得しますが、彼らに向き合っていると中長期的に会社を成長させるという視点から目線がズレてしまいます。その結果、“上場ゴール”に陥ってしまうことが多いと思います。それを避けるためには未上場段階から大きく育てて大きく上場することで、中長期視点を持つ機関投資家から出資を受けるのがいい。ただ、日本にはレイトステージの企業に投資する国産ファンドが少なく、海外の“ツーリストマネー”に依存せざるを得ないため、日本の未上場企業に粛々と投資を続けるファンドをいかに増やすかが今後の課題です。

斎藤:本日は大企業で働かれている方も多くいらっしゃっています。大企業に求めたいことは?

朝倉:お気を悪くされるかもしれませんが、スタートアップが大企業に求めることは三つあります。カネ、カネ、カネです。資金調達のお金だったり、顧客になってその事業を使ったり、共同で事業開発する際の資金提供などが挙げられます。よく起こりがちなのが、事業に介入するわりには意思決定に時間がかかるケースです。大企業の中で事業を始める場合と同じような審査基準を当てはめてしまうため、時間がかかって待たされる。スタートアップにとって1カ月も待たされるのは死刑宣告に等しい行為です。

大企業がスタートアップと組む場合には、ソフトウェア開発における“サンドボックス”を作るのがいいと思います。問題が発生しても本体に影響しないような機能です。一定の範囲内なら鉄の心で一切関与せず、スタートアップに任せることも必要です。

シード・アーリー期のスタートアップについて

斎藤:シード・アーリー期のスタートアップに投資する際に注視している点は?

朝倉:いま現在、アニマルスピリッツという会社で「未来世代のための社会変革を実現する」というビジョンを掲げてシード・アーリー期の企業に投資をしています。具体的には以下の三つの領域で事業を展開しているスタートアップです。

一つ目が「国を守る」。いまや日本は高齢化社会が終わり“超高齢社会”に突入しています。日本を持続可能たらしめるために、例えばDXのセクターなどが当てはまります。二つ目が「地球を保つ」。クライメートテック(※3)を始めとした脱炭素や循環型経済などの領域です。そして三つ目が「フロンティア」。生成AIや宇宙開発といった新しい領域です。スタートアップの方々とお会いするときも、この三つのテーマの中でどれに当てはまるのかを見ています。

※3 気候変動問題を解決するための革新的なテクノロジー

斎藤:シード・アーリー期の企業で伸びる企業と伸びない企業の違いは?

朝倉:経営者とマーケットです。経営者以上の競争力の源泉はなく、間違ったマーケットでどれだけ頑張ってもうまくいかない。プロダクトの出来は気にしていません。

斎藤:マーケットの規模はどの程度あれば良しとしますか?

朝倉:規模の大きさといった考え方はしません。SAM(※4)が小さくても、そこで本当に刺さるプロダクトを作ることができれば、横展開も可能です。また、自分たちが戦っているマーケットが3年後、5年後、10年後にどう変わっていくのかという視点をしっかりと持っているかどうかを見ています。

※4 その事業で獲得できる(実現可能)とされる最大の市場規模

スタートアップ・エコシステムを進化させるためには

斎藤:冒頭に𠮷村室長からもお話があった「グローバルに展開する東京都発のユニコーン数」「東京都の起業数」「東京都の協働実践数」、それぞれを5年で10倍にするという、5カ年計画を成功させるためには何が必要だと思いますか?

朝倉:スタートアップ・エコシステムがどうしたら発展していくのかを自分なりに行動化して考えた結果、“アニマルスピリッツ”が最も大事だという結論に達しました。アニマルスピリッツとはケインズという経済学者が作った、衝動や野心、意欲という意味を含む言葉です。要するに「何をしたいのか」「何を作りたいのか」という気持ちが一番大事なんです。受託仕事ではなく、誰からも頼まれていないのに、自分が成し遂げなければならないことの実現のために自ら率先して行動する。そんな衝動や思いが今この瞬間、最も価値があると思っています。

斎藤:エコシステムを発展させるためにアニマルスピリッツを身につけるには何が大事ですか?

朝倉:教育です。日本の教育は人と同じことを良しとし、失敗は許されない風潮があります。いかに迅速に正解にたどり着くかが求められていますが、そもそもスタートアップに正解なんてありません。「人と違うことを全面肯定する」「失敗することを積極奨励する」「自分の頭で考える」、これらが日本の教育には必要です。一番良くないと感じるのが義務教育の9年間にやらされる「前へならえ」。前の人と同じことをやりなさいと言われ続けているようなものです。そんな言葉を9年間も浴び続けた人が、大人になって突然、イノベーティブなものを作れるようになるわけがありません。

斎藤:最後に行政の政策について提言があればお願いします。

朝倉:個別の施策についてコメントする立場ではないのですが、スタートアップ5カ年計画のようなスタートアップを後押しするための施策に大きな予算がついていても、直接的に恩恵を受けているスタートアップはほとんどないと思います。もちろん間接的には恩恵を受けていると思いますし、そういった施策も必要ですが、しっかりとスタートアップが恩恵を受けられるようになることが必要だと思います。

斎藤:最後に、朝倉さんから会場の皆さんとライブ配信を視聴している方々にメッセージをお願いします。

朝倉:ここまでスタートアップがお膳立てされている環境はこれまでありませんでした。しのごの言わず、やりましょう。日本は失敗すると再起できない風潮があって良くないと言われていますが、間違いです。(失敗したとしても)起業経験があるほうがよっぽどいい。本来、実体がなくても、言い続けることで実体を帯びてしまうので、「失敗したら再起できない」という言葉は金輪際禁句にしましょう。

経営者としてリスクテイクするということは、逃げ道を作ることでもあります。失敗しても再起できる仕組みを予め作っておく。退路を絶ってはいけません。逃げ道をたくさん用意してください。逃げ道を作って思い切って振り抜くことが大事だと思います。

(5)東京都からのご挨拶

最後に、東京都 スタートアップ・国際金融都市戦略室 戦略推進部スタートアップ戦略推進担当課長 朝光慎也からご挨拶をしました。東京コンソーシアムの中からユニコーン級企業を輩出するために、来場されたスタートアップの方々に「ディープ・エコシステム」への参加を改めてPRしました。東京コンソーシアムではディープ・エコシステムの支援対象企業を募集しています。以下のサイトから応募ができますので、ふるってご参加ください。
2023年度「ディープ・エコシステム」の支援対象企業 募集開始 (tokyo.lg.jp)

(6)懇親会

来場された参加者の皆さまによる懇親会が開かれました。会場ではスタートアップが製造するノンアルコールのクラフトビールが無料で振る舞われました。また、参加者の属性が一目で分かるように、ネックストラップの専用台紙のデザインが「スタートアップ」「事業会社」「投資家・金融機関」「行政自治体・大学」「メディア」で分けられていたり、「今日、出会いたい人」を書いてパネルに掲示するなど、参加者同士の交流が促進されるような様々な工夫が施されており、終了間際まで参加者同士の交流が続いて大盛況のうちに閉会となりました。

(7)参加者の声

「スタートアップをやっているとお金が本当に大事。朝倉さんが言っていた『スタートアップが大企業に求めるのはカネ、カネ、カネ』というのは本当にそうだなと思いました。大企業はより協力的になってくれるとうれしいですね」

「逃げ道を作って、思い切り振り抜くという言葉にすごく共感を覚えました。私自身、退路を断ってスタートアップに飛び込んだのですが、もっと気楽に考えてやっていきたいなと思いました」

「サンドボックスをうまく作るというアドバイスがとても参考になりました」

「東京都含めて一丸となって盛り上げていこうということが、会場の熱気とともに感じられました」

「官民が一体となってスタートアップを盛り上げていこうという熱量を感じました」

「コロナ禍はこのような交流がなかなかできなかったけれど、今日は新しい出会いもあり、参加して良かったです」

以上