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[インタビュー]調理ロボットで世界の“おいしい”を進化させる

[インタビュー]調理ロボットで世界の“おいしい”を進化させる

東京コンソーシアムの会員である TECHMAGIC株式会社は、自動調理ロボットの開発で食産業の人手不足問題に挑むディープテック・スタートアップです。本対談では、東京コンソーシアム・ディープ・エコシステムの一環として TECHMAGIC社をサポートする井村賢氏が、同社の代表取締役/CEOである白木裕士氏に製品の特徴や事業戦略について話を聞きました。

白木 裕士[写真左](TECHMAGIC株式会社)
聞き手・進行:井村 賢[写真右](東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)
(敬称略)

※「ディープ・エコシステム」は、海外展開を視野に入れ、今後急成長が見込まれるスタートアップを選抜した上で、集中的に支援し、ユニコーン級への成長を後押しする東京コンソーシアム独自の取組です。選定された企業様に対して、国内のみならず海外展開を視野に入れ、東京コンソーシアム会員をはじめとし、国内外の事業会社・ベンチャーキャピタル・機関投資家など、東京コンソーシアムの集積とネットワークを生かした多様なメンバーによる支援を実施しています。

祖母がきっかけで調理ロボットに着目

井村:まずは御社の事業概要についてご紹介ください。

白木:私たちは「ロボットテクノロジーで、人類の幸せの質を高めていく」というミッションのもと、世界中のの“おいしい”を進化させ、人類の幸福の質を向上させることを目指し、調理ロボットと業務ロボット事業を展開しています。日本の食産業は、外食、中食、内食という大きなセグメントに分かれています。私たちは、外食分野では主に調理ロボットを提供し、中食分野では業務ロボットを導入しています。

調理ロボットは、現在「茹でる」「炒める」「揚げる」の3種類の調理をカバーしています。「茹でる」の領域では株式会社プロントコーポレーション(様)が運営する飲食チェーン『PRONTO』『エビノスパゲッティ』にパスタ調理ロボットを、「炒める」の領域では中華チェーンの『大阪王将』様に炒めロボットを導入していただいており、「揚げる」の領域ではケンタッキー・フライド・チキンの『KFC』様と共同案件を進めています。

また、業務ロボットにおいては『キユーピー』様と協力して、食品工場での盛り付け作業の自動化に取り組んでいます。国内で約60万人もの人々がお総菜やお弁当の盛り付け業務に従事していますが、83%の企業が人手不足を感じています。このような状況下で、最も単純作業ながらも人の手が必要な作業であるお総菜の盛り付けを、キユーピーさんと協業して自動化しています。

井村:ありがとうございます。日本には数千社のスタートアップが存在しますが、調理ロボットを手掛けるスタートアップは珍しく、非常にオリジナリティが高いサービスだと思います。そこで、起業に至った経緯や、なぜ調理ロボットの事業を始めようと思ったのか、教えていただけますか。

白木:ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)に勤務していた2017年に、料理好きな祖母の家を訪れた際、高齢により料理ができなくなっていることに気づきました。祖母は独り身で、自炊するモチベーションも失っていましたが、おいしい健康的な食事を食べたいという願望はまだ持ち合わせていました。この状況を目の当たりにし、調理が難しい人でも自分の好みに合わせた料理を楽しめる世界があれば、祖母のような高齢者の食生活の質が改善されるのではないかと思い至りました。そこで、調理ロボットのアイデアを思いついたのです。

その後、事業計画を立てていくなかで、個人向けの調理ロボットの開発は高リスクであり、当時の段階では成功確率が低いと感じました。しかし、外食産業や中食産業をリサーチするなかで、人手不足の問題が深刻化していることがわかりました。加えて、マクロの視点でAIロボット技術の社会実装が加速化していく見通しもありました。この二つの要素を組み合わせた結果、まずは法人向けに調理ロボットのサービスを提供し、企業様のお手伝いをする方向に舵を切りました。

白木 裕士(TECHMAGIC株式会社)と井村 賢(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)対談

ベンチャーマインドを育てた家族の影響

井村:起業前のキャリアもお伺いしたいのですが、白木さんのベンチャーマインドはどなたの影響を受けているのでしょうか。

白木:祖父や父、親族がそれぞれ様々な事業をやっている環境で育ったため、親族からの影響は大きいと思っています。特に父は、私が小学生だった頃に4代続いた会社が倒産してしまった後も、「世の中に新しい価値を作っていくことが重要」と信じて再び起業するようなアントレプレナーシップの高い人物でした。「多くの人に良いインパクトを与えられることが起業家の面白いところ」とよく話しており、その考え方に私も大きな影響を受けたと思っています。当時の私は、将来起業家になるのであれば、グローバルに活躍したいと考え、高校時代にカナダへ留学しました。留学先の高校では、在学中に家庭教師派遣のオンラインサービスを作りました。それが私の最初の事業です。

井村:お父様だけでなく、おじい様からも多大な影響を受けたと伺っています。

白木:同じく経営者だった祖父からも、大切なことを学びました。祖父は常々、「世の中のため、人々のためになることが最も重要な道である」と言っていました。子どものころはそれがどういう意味かよく分かりませんでしたが、事業を始めてからは、事業の目的が単にお金を稼ぐことではなく、社会や産業、企業のために徳を積むことであるべきだと理解できるようになりました。これが実現できれば、結果的にお金もついてくると考えています。まず重要なのは、どうしたら社会、産業、顧客に価値を提供できるか、徳を積めるか。この考え方を祖父から学びました。

井村:御社のミッション・ビジョンにも、その考えが影響していますか。

白木:そうですね。ミッション・ビジョンだけでなく、全ての意思決定においても、この考え方が経営者としての基盤でなければならないと思っています。単なる短期的な売り上げよりも、長期的な企業や産業への貢献の方が重要だと考えています。

井村:学生時代に起業した事業を売却してまでもコンサルティングファームであるBCGで働こうと思った理由は?

白木:BCGへ入社した理由は、スモールビジネスではなく、より大規模な市場で戦っていくための戦略や課題解決の手法を体系的に学びたいと思ったからです。大企業が抱える経営課題に対して、経営戦略をどう策定し、社会インパクトを創出していくのかを多数のプロジェクトに参画することで学ばせて頂き、テックマジックの経営にも役立っていると自信を持って言えます。

井村:BCG時代に先ほどのおばあ様とのエピソードがあってから、その後すぐに起業されたのでしょうか。

白木:調理ロボットを使った起業を決意した後、まずは現場を深く理解する必要があると感じ、BCGを退職してから、ファミリーレストランのガストでアルバイトをしました。これは私の隠れ職歴です(笑)。ファミリーレストランで働いた理由は、主要な調理方法の「茹でる」「炒める」「揚げる」「焼く」を全て取り入れている業態がファミリーレストランだからです。また、そのなかでもガストは店舗数が多く、オペレーションから多くを学べると考え、厨房での経験を積みました。そして2018年2月に TECHMAGIC株式会社を設立しました。

白木 裕士(TECHMAGIC株式会社)インタビュー

調理ロボットが人手不足問題を解決する

井村:人手不足という社会課題を解決するために、調理ロボットの開発に舵を切ったとのことですが、ロボットを作る上で御社が特に意識していることは何ですか。

白木:人手不足問題を解決するためには、省人化を0.5人単位ではなく、1人単位で実現できる製品にすることが重要です。さらに1人単位で省人化するためには、調理工程の「茹でる」「炒める」「揚げる」に加え、それに伴う前後の工程の自動化が不可欠です。例えば、プロントコーポレーション様に導入していただいているパスタ調理ロボットの場合、冷蔵庫からソース、具材を取り出し、「茹でる」と「炒める」を行い、調理後はフライパンの洗浄を行うという、この一連の工程を自動化しています。そうすることで1人~2人の削減効果を感じていただいています。

井村:省人化が可能で人手不足に対応できる点は、メリットとして明確です。一方で、コストについても重要な要素だと思います。人手を削減できるとしても、初期費用やメンテナンスのコストが高いと、企業側は躊躇することもあるでしょう。この点についてはいかがですか。

白木:やはり、人件費をしっかりと削減することで、飲食店における店舗人件費率をいかに抑制していくかが、極めて重要だと思っています。大阪王将・西五反田店で炒めロボットを導入した際の事例をご紹介しましょう。3台の炒めロボットをテスト導入したところ、店舗の人件費比率が導入前の30%に比べて8.5%減少しました。それにより利益率が約10%上昇しています。

井村:それはすごいですね。

白木:省人化による効果は、PL(損益計算書)にも明確に表れています。一般的に飲食店の平均利益率は2%と言われていますが、利益率を10%上昇させている点は、調理ロボットの貢献度を示していると思います。

井村:すばらしいですね。私も大企業とスタートアップのマッチングや協業支援を手がけていますが、オープンイノベーションは、PL(損益計算書)にどの程度貢献しているかが見えにくいケースが多く、また、実感するまでに時間もかかります。大阪王将の事例のように、導入してすぐに明確な効果が実感できるケースは珍しいと思います。私自身セールスをしていて感じるのは、定量的な数字を提示しないと顧客が納得しないことが多い。その意味で、具体的な数字を出せるのは非常に有効だと思います。一方で、ロボットさえ導入すれば全ての作業を自動化できるかといえば、難しい部分もあると思います。その点についてはどうお考えですか。

井村 賢(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)インタビュー

白木:例えば同じ中華料理のジャンルでも、お店によって異なるメニューを扱っているため、様々なオペレーションが存在します。したがって、SaaS(Software as a Service)のように、一度作ればどこでも適用できるわけではなく、お店ごとに異なるオペレーションをどのように自動化していくかが我々の使命だと考えています。そのためには、製品ポートフォリオの拡大が必要です。一般的にスタートアップは集中と選択が大切だと言われていますが、我々はそのセオリーを無視して、いろいろなお客様と多様なソリューションを開発しています。顧客からの要望はあっても解決できていないオペレーションはまだ数多くあります。製品ポートフォリオや機能拡充をすることで、より多くのお客様にとって即戦力となるようなパートナーロボットを開発していく必要があると思います。

井村:御社の調理ロボットの特長として、ハードウェアとソフトウェアの融合が挙げられると思います。詳しく教えていただけますか。

白木:調理ロボットを扱う会社は世界中にあります。その多くはアームロボットを使用し、ソフトウェアによる制御の自動化を目指していますが、私たちはソフトウェアだけでなく、ハードウェアも一緒にゼロから開発しています。「ここのオペレーションにはこういうハードウェアとソフトウェアを融合させて、この作業を自動化していきましょう」といったように、ゼロからデザインしているのが弊社の特長の一つです。

調理ロボットの開発においては、「自動化の範囲を定める」「人と同等のスピードで作業ができる」「サイズ」「コスト」が重要です。ハードウェアからしっかりと設計し、その中で最適に動くソフトウェアを搭載することで、まったく新しいオペレーションを作れることが、我々の強みだと思います。

井村:調理ロボットと業務ロボットにおいて、相性の良い業態はありますか。

白木:相性が良い業態としては、ファーストフード業界が挙げられます。中華の炒め料理のように、同じカテゴリー商品を繰り返し作る業態は、ロボットの稼働率が上がるため、私たちのロボットと相性が良いのです。一方で、居酒屋のように多品種少量で提供する業態は、ロボットの効率が低下し、ロボット自体も大きくなる傾向があります。そのため、ファーストフード業界が自動化に向いていると考えられます。

パスタの調理を5分から1分に短縮

井村:ファーストフード業界の話題が出ましたので、現在、御社が取り組んでいるプロントコーポレーション、大阪王将、KFCとの協業についても伺いたいと思います。まずはプロントコーポレーションに導入しているロボットやその特長などについて、お話しいただけますか。

白木:プロントコーポレーション様では、『P-Robo』というロボットを導入しています。この“P”はパスタを意味していて、これまでに約10万食の調理をこのロボットで行ってきました。

P-Roboによる作業工程は以下の通りです。まず、お客様から注文を受けた後、ソースと具材を自動で計量し、麺も自動で供給します。麺がゆでられている間に、ロボットが食材を運び、麺を受け取って調理を行います。調理の時間や温度はレシピごとに異なり、これらはすべてパラメータで制御されます。調理が終わると、盛り付け台に移し、盛り付けをしてから洗浄します。この工程のなかで、盛り付けを除くすべてをロボットが行っています。開発段階で盛り付けの自動化についても検討しましたが、全てを自動化するのではなく、お客様にとっての付加価値が高い部分と低い部分を区別し、付加価値が低い部分のみを自動化する方針をとりました。盛り付けは見た目に関わるため、美しい見た目の盛り付けやトッピングは引き続きスタッフが行うことにしました。

以前は人によるオペレーションでお客様への提供に5分程度かかっていましたが、P-Roboの導入により、提供時間を1分ほどに短縮できるようになりました。この結果、1人~2人の省人化を実現しました。この5分と1分の差分が生じるのは、人の手作業では全ての工程を1人で行わなければならず、同時に複数の作業を行うことが難しいためです。一方、P-Roboではライン生産方式を採用しており、異なる場所で異なる工程が同時進行しています。これにより、時間短縮が可能になりました。

井村:PLへの貢献はもちろんのこと、顧客の満足度向上によって売上の拡大も期待できそうですね。特にピークタイムの生産性が向上すると、売上にも大きな影響を及ぼすでしょう。では次に、大阪王将についても、導入したロボットとその成果について教えてください。

白木 裕士(TECHMAGIC株式会社)と井村 賢(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)対談

大阪王将のメニューを高いレベルで自動調理

白木:プロントコーポレーション様に導入していただいたP-Roboは比較的大きなロボットでしたが、いかにロボットを小型化していくかという課題感が我々にはありました。そうした背景があるなかで、「茹でる」機能を排除し、「炒める」専用のロボットを開発しました。この新しいロボットはI-Roboと命名しました。I-Roboの主な機能は、自動炒め調理、調理終了後の自動洗浄、そしてオプションとして調味料の自動供給です。P-Roboと同様に、さまざまなレシピをクラウドにアップロードし、再現可能です。大阪王将様に関しては、天津飯のふわとろ玉子以外の炒め料理をこのI-Roboは再現できます。

大阪王将様では、料理の速さとクオリティを、1級から3級までの3つのレベルで審査する独自の料理検定試験制度があります。1級は500人の中でわずか17人が保持している高いレベルですが、この炒めロボットはわずか半年で1級のレベルを完全にコピーするまでに達しました。1級レベルのスピード、品質を再現する能力を備えています。職人の育成にかかる時間や人材不足、高齢化という課題があるなかで、職人は付加価値の高い活動、例えばレシピの開発や再現に集中できるようになります。つまり、企業の持続可能な体制構築や、最適化にも貢献できます。

炒飯を調理するI-Robo
炒飯を調理するI-Robo
I-Roboが調理した炒飯

井村:人材をより知的で創造的な仕事に振り分ける、適切な職務に配置することに焦点を当てているということですね。ちなみに、プロントコーポレーションも大阪王将もチェーン展開をしていて、いろいろな店舗がありますが、店舗ごとにPOC※がいるのでしょうか。それとも、一つ決まれば横展開できるのでしょうか。

※「PoC(Proof of Concept)」は、日本語で「概念実証」と訳される。これは、サービスや製品に用いられるアイデアや技術が実現可能かどうかを確認するための一連の検証作業を指す。

白木:基本的には、一箇所で機能するならば、他の店舗でも同様のオペレーションが可能です。大阪王将様だけでも約350店舗を運営しており、現在1店舗あたりに3台のロボットを導入していますので、もし全店舗を仮に自動化できれば、約1000台程のロボットが稼動することになります。

井村:実現すれば業績が著しく拡大しますね。ちなみに、サブスクリプションを取り入れていく予定はありますか。

白木:リカーリング(継続的課金)モデルをご案内しております。たとえば、この炒めロボットの場合、導入コストは月額約10万円となっています。従業員一人分の人件費は月に60万円程度かかると見込まれていますので、仮に3台導入するとしても、人件費の半分程度で運営できる計算です。

井村:ありがとうございます。続いて、KFCの事例についてもご紹介ください。

白木: KFC JAPAN様と共同でフライドポテトの調理の自動化に取り組んでいます。このプロジェクトでは、調理の前後工程を含む一連の作業を自動化し、食材の供給から調理、そして最終的なパッケージングまでを自動化する装置を開発しています。揚げる作業には油が飛び散って火傷するリスクがあります。KFC様は従業員が楽しく働ける環境を提供したいと考えており、その一環としてフライドポテトの作業の自動化に取り組んでいます。現在は開発段階で、2024年度中にはテスト導入を開始する予定です。

ロボットには難しいポテサラを正確に盛り付ける

井村:最後にキユーピーの事例もご紹介いただけますか。

白木:キユーピー様とは、お惣菜の盛り付け作業に関するプロジェクトを進めています。開発しているのは、一人の作業者に相当するロボットです。特長は盛り付けの精度です。指定されたグラム数を、許容誤差範囲内(マイナス0グラム、プラス8%)で正確に盛り付ける能力を持っています。唐揚げのような個体の盛り付けは他社の事例としてもありますが、粘り気のあるような、ロボットにとって作業しにくい食材でも、99%の確率で指定された量を正確に盛り付けることが可能です。

井村:キユーピーではどのような製品にこのロボット技術を適用しているのですか。

白木:キユーピー様は約80の生産拠点を運営している大企業で、スーパーマーケットやコンビニエンスストア向けにポテトサラダなどの製品を生産しています。我々が開発しているのは、そのような生産現場での盛り付け作業に特化したロボットです。

井村:キユーピーは先に挙げた3社とは異なり、御社と資本提携を行っています。キユーピーからの御社に対する期待は、特に大きいのではないかと思います。具体的に、御社が期待されている部分とは何でしょうか。

白木:今回、シリーズCで10億円の出資を受けました。その期待には、私たちのロボットテクノロジーとロボットAIの技術への評価が含まれていると思います。我々もスタートアップとしてのスピード感を持った展開を通じて、キユーピーグループに貢献したいと考えています。

白木 裕士(TECHMAGIC株式会社)インタビュー

東京コンソーシアムの支援内容

白木:東京コンソーシアムは、スタートアップのグローバル展開をサポートし、いかにユニコーン級の企業に成長させるかという目的があると認識しています。我々ももちろん、ユニコーンを目指したディープテック企業として、いかにグローバルに戦っていくのかが問われています。そのなかで、スタートアップに強い東京コンソーシアムさんに協力いただけることで、我々がアプローチできない企業のキーパーソンなどにアクセスできるというのは、非常に心強いと思い、応募させていただきました。

井村:東京コンソーシアムから受けた支援のなかで、特に役立った点について、具体的に教えていただけますか。

白木:まず、東京コンソーシアムに参加して良かったと感じています。主な利点としては、大企業との接点の提供があります。単なる紹介にとどまらず、ミーティングへの同席や案件の調整など、仲介役としての支援が非常に助かりました。

また、スタートアップとしてブランド認知力の向上は重要な要素です。City-Tech.TokyoやCESなどのイベントへの招待を通じて、国内外のスタートアップ関係者とのネットワーキングの機会が得られたのは大変ありがたいです。

定期的に設けていただいたミーティングでも、高レベルなアドバイスや課題感に対するヒアリングを行っていただきました。社内や顧客とは異なる視点からのアドバイスが可能なアドバイザーのような立場は、起業家にとって非常に心強いものです。

海外展開が重要な理由とは

井村:今後の事業展開についてお伺いしたいと思います。国内外を含めた事業展開の方向性についてはどうお考えですか?

白木:私たちは調理ロボットと業務ロボットの分野で、日本国内だけでなく、グローバル市場でのNo.1の地位を獲得することを目指しています。これにより、産業に大きなインパクトを与えることができると考えています。そのためには、いくつかの重要な取り組みが必要です。

まず、製品ポートフォリオを拡大し、様々な企業に適したパートナーロボットを開発すること。次に、レシピの自動化や職人のレシピ再現などのデジタルコンテンツの拡充が重要です。これらのノウハウが蓄積されていけば、食インフラが少し変わっていくのではないかなと思っています。例えば、外食企業が店舗を持たずにビジネスを展開できるようになるかもしれません。大学のカフェテリアに設置された調理ロボットで、大阪王将様のレシピをダウンロードし、調理することで新しい収益源を創出する、という未来も見えてきます。

幅広いハードウェア製品の開発とコンテンツの蓄積が、グローバル市場でのリーダーシップを確立するためには重要です。これを実現するためには、大企業や大手食品メーカー、大手飲食チェーンなどとの連携を強化し、現場に密着した取り組みを続けることが、私たちの戦略上、極めて重要です。

井村:御社が海外市場に進出する意義や重要性について教えてください。

井村 賢(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)インタビュー

白木:人口減少により国内市場が縮小するのは自然の流れですし、国内における低人件費はロボットベンチャーにとって厳しい面があります。しかし、海外を見ると、アメリカやイギリス、オーストラリアなどの国々の人件費は日本の倍以上、場合によっては3倍に達しています。日本で高品質な製品を開発し、これら高人件費の国々に展開することは自然な流れであり、ロボットによる人件費の合理化効果も大きくなると思います。

日本で開発した優れた製品やコンテンツを装備した調理ロボットをグローバルに展開することは重要です。国内では調理ロボットのプレイヤーが限られていますが、グローバル市場では複数の企業が活動しており、一部は大手企業に買収されるほど注目を集めています。そのため、日本国内だけでなく、特にアメリカ市場で戦うことが我々にとって重要だと考えています。

井村:日本のスタートアップのなかで、初期段階から海外展開を考慮しているケースは少ないと思いますが、白木さんは最初から海外展開を視野に入れてプロダクトを開発していたのでしょうか。

白木:私が学生時代北米で生活していたことも関係しているかもしれませんが、調理ロボットや業務ロボットは、他のSaaS事業よりも言語の壁が低いと思っています。このため、ローカライズの必要性が薄く、製品の展開がしやすいと考えています。さらに、アメリカ市場は日本よりも広いスペースを持っているため、設置に関する課題が日本よりも少ないと感じています。

井村:つまり、ニーズがある上に、自社の課題も少なく、収益率も良い状況で、それを前提に事業を進めているわけですね。そう考えると、海外展開を行わない理由はないということですね。最後に、東京コンソーシアム・ディープ・エコシステムに応募を考えているスタートアップの方々に向けて一言御願い致します。

白木:海外展開をしない理由がないという話をしましたが、東京コンソーシアムも入らない理由はないと思っています。民間企業や政府など、多様なネットワークを持つ東京コンソーシアムの存在は、スタートアップにとって非常に重要です。これからもさらなる付加価値をいただけることを期待しています。

白木 裕士(TECHMAGIC株式会社)と井村 賢(東京コンソーシアム ディープ・エコシステム担当)の対談

白木 裕士(しらき ゆうじ)
TECHMAGIC株式会社 代表取締役CEO

文ボストンコンサルティンググループで通信・製造業を中心に、新規事業/グローバル戦略/組織改革なと幅広いPJで活躍。政府プロジェクト「日本における人手不足解消」プロジェクトに参画。デジタルトランスフォーメーションやAl ・ロボットによる生産性改善に知見をもつ。

高校・大学はカナダに単身留学し、ハーバード大学院COReを修了。大学時代に起業、Exit実績を持つ。2018年TECHMAGICを創業。