
■概要
「協業戦略Lab:制度・実務・検討プロセスから共創を前進させるワークショップ」は、事業会社やCVC、支援機関を主な対象として、スタートアップ共創を“実行段階”に進めるうえで必要となる制度理解と実務上の勘所を共有するワークショップとして開催されました。基調講演では、国のスタートアップ政策全体像やオープンイノベーション促進税制、M&A支援、調達促進策などが紹介され、その後のパネルでは、制度拡充の目的、企業が動けない背景、さらに事業会社における具体的な活用事例や社内検討プロセスの工夫まで、多面的に議論が展開されました。
■登壇者
経済産業省
・榊 裕太氏(イノベーション・環境局 イノベーション創出新事業推進課 課長補佐(総括))
・榎丸 眞氏(イノベーション・環境局 イノベーション創出新事業推進課)
一般社団法人日本経済団体連合会
・近藤 秀怜氏(産業技術本部 上席主幹)
KDDI株式会社
・舘林 俊平氏(オープンイノベーション推進本部 副本部長 兼 OIビジネス開発部長)
株式会社MOL PLUS
・阪本 拓也氏(代表取締役社長)
アビームコンサルティング株式会社
・小山(東京コンソーシアム事務局)
■ 当日扱った主な論点(トークテーマ)
パネルディスカッション①:経産省・経団連担当者による政策トーク
・今回の税制拡充は、何を変えようとしているのか
・企業が動けない理由は何か
・制度を効果的に活用するために何が必要か
パネルディスカッション②:制度を活用した大企業によるスタートアップ共創事例トーク
・共創のきっかけと背景
・制度をどのように活用したか
・社内検討プロセスの工夫と乗り越え方
・共創による成果や現在進行中の取組
【パネルディスカッション①:経産省・経団連担当者による政策トーク】
1)「今回の税制拡充は、何を変えようとしているのか」
本テーマでは、オープンイノベーション促進税制の拡充・延長が、単なる税制措置ではなく、大企業・スタートアップ・VCを含むエコシステム全体の行動変容を促すための“後押し”として位置付けられている点が議論されました。特に、M&Aを含む多様な成長手段を前提にした経営判断を広げることや、社内稟議・投資判断を進めやすくする制度的な後押しとしての役割が共有されました。
また、産業界側からは、出資の意思決定における後押しの材料として税制の意義が大きいことやマイノリティ出資まで対象が広がったことなどの実務的な価値が示された一方、持株会社形態の対象化などの論点も指摘されました。
2)「企業が動けない理由は何か」
企業内でスタートアップ連携や出資、M&Aが前に進まない背景として、単なる案件ごとのリスク判断ではなく、そもそも経営戦略の中でスタートアップ共創がどこまで重要施策として位置付けられているかが大きな論点として共有されました。
経営レベルで重要性が十分に認識されていない場合、社内理解や合意形成が進みにくくなることが示されました。加えて、制度認知が一層必要であること、知っていても手続の煩雑さや運用負荷が障壁となり得ることも共有され、特にスタートアップ側では限られた体制の中で制度を使いこなす難しさがあることが指摘されました。
3)「制度を効果的に活用するために何が必要か」
制度を実際の共創・調達・出資・M&Aにつなげていくためには、まず経営層のコミットメントが不可欠であることが強調されました。経営層の意思が起点となって初めて、オープンイノベーションやM&Aが経営戦略に位置付けられ、各種制度を一体的に活用することで、社内体制の整備や具体的な実務プロセスの設計が進むことが示されました。
また、制度活用にあたっては、CFOを含む上位意思決定者への具体的なメリット説明に加え、経理・財務・法務・経営企画など管理部門を早い段階から巻き込むことの重要性も論点となりました。他社事例や支援機関の知見を参照しながら、自社に適した活用パターンを見いだしていくことも、制度浸透を進めるうえで有効な視点として示されました。

【パネルディスカッション②:制度を活用した大企業によるスタートアップ共創事例トーク】
4)「制度をどのように活用したか/社内検討プロセスをどう乗り越えたか」
事業会社の実例としては、制度は意思決定を進める“アクセル”として機能していることが共有されました。
KDDIからは、オープンイノベーションを自社成長の原動力と位置付け、アクセラレーション、マッチング、CVC、海外VC投資、M&A、アカデミア連携など複数の手段を組み合わせて取り組んでいる実態が紹介されました。
MOL PLUSからは、スタートアップとの協業を有効な選択肢として社内に理解してもらうため、具体例や外部関係者との対話を重ねながらコンセンサス形成を進めてきた経緯が共有されました。
さらに、KDDIではバックオフィス部門に対してスタートアップ案件特有のスピード感を長年かけて浸透させてショートタームで応答可能な運用を実現していること、MOL PLUSでは親会社本体から一定程度切り離した意思決定機能を持つことでCVC判断の独立性を確保していることなど、社内検討を前に進めるための具体的な工夫も示されました。
5)「成果と現在進行中の取り組み」
成果の捉え方として、個別案件のIPOやM&Aの成否だけでなく、スタートアップと向き合う際の“手札”や“選択肢”を増やせたこと自体に価値があるという考え方が紹介されました。
KDDIからは、少額出資、一定比率の資本参加、グループイン、IPO支援など複数の関与パターンを持てるようになったことが成果として語られました。
MOL PLUSからも、「何もしなかった場合」と比較して、将来に向けた選択肢を持てる状態を整えておくこと自体が重要な成果であるとの視点が示されました。
経済産業省からは、出資関連取引以外にも、出向、調達、共同研究など多様なオープンイノベーションの類型に対して支援メニューが整備されており、今後もオープンイノベーションを後押しする意向が共有されました。

■実施後アンケート
本ワークショップ実施後、参加者にアンケート回答を依頼しました。本アンケートは、イベント各セッションに対する満足度を把握するとともに、オープンイノベーション(OI)推進に関する参加者の意見(課題認識および制度面の示唆、今後の取組)を収集することを目的として実施しました。設問は、基調講演およびパネルディスカッション各セッションの満足度ならびに所感、OI推進上の課題および背景、緩和を希望する規制・制度、イベント後の展望・今後の取組、の4つの観点で構成しました。
回答者属性は事業会社に加え、VC、金融機関、大学・研究法人と多様であり、基調講演および各パネルディスカッションは総じて高い満足度が確認されました。所感としては、政策・税制に関する情報が体系的に整理され、共創の実務に引き付けて理解を深められた旨の評価が見られました。加えて、イベントを通じて、OI推進に向けた社内の巻き込みや実行体制の整備、協業先探索、PoC後の事業化、契約・知財対応等の整理すべき論点が明確化され、制度面に関しても改善の方向性に関する示唆が得られました。以上より、本イベントは参加者にとって、得られた知見を社内外へ展開し、次の取組検討へ接続する上で有用な機会であったと整理できます。
■まとめ
本ワークショップでは、スタートアップとの共創を進めるうえで、制度は“知っているだけ”では意味がなく、経営戦略への位置付け、経営層の意思、管理部門を含めた社内体制、そして現場で回る実務プロセスまで接続してはじめて活用されるという点が明確になりました。
あわせて、税制やガイダンスは単なる制度説明の対象ではなく、企業が共創・出資・M&A・調達といった複数の選択肢を持ちながら意思決定を前に進めるための実践的な支援策として捉えるべきことも共有されました。
最終的には、個別案件の短期的成果だけでなく、「何もしないことによる機会損失」を避け、将来に向けて動ける状態をつくっておくことこそが、事業会社にとっての重要な成果であるという示唆が得られる場となりました。