
来年のSusHi Tech Tokyoのキックオフとして開催された本イベントは、「東京市場の魅力解説」と「海外VCトークセッション」および「ネットワーキングセッション」の3つで構成され、冒頭2セッションではスタートアップ・ゲノムジャパン代表取締役社長の西口氏が会の進行を務められました。「東京市場の魅力解説」では、東京都𠮷村室長、およびSozo Ventures斎藤氏から、東京圏のポテンシャルや海外スタートアップ企業からみた日本市場の魅力についてお話いただきました。「海外VCトークセッション」では、まず西口様から、グローバル・スタートアップエコシステムの概観と東京の立ち位置を言及いただきました。続いてQAI VenturesのAlexandra(アレクサンドラ)氏より、量子/Iコンピューター領域に出資する世界有数のVCから見た日本市場の魅力や、自社との提携において日本企業が得られるメリットについてご解説いただき、日本市場への進出や日本企業との協業について前向きに検討していると語ってくださいました。
開会にあたって、東京コンソーシアム事務局森本より、開会の挨拶とともに、東京コンソーシアムの紹介がありました。
東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室長𠮷村恵一氏
𠮷村:東京圏の魅力は、3000万人を抱える巨大市場、大企業や大学の集積、そして先代から継承された「清潔・安全・正確さ」です。
東京都では、2年前にスタートアップ戦略を策定し、将来的にユニコーンを10倍にする目標を掲げています。そのためには、海外からの投資を引き出す必要があります。そこで、海外から選ばれ、世界に向けて育つSU都市の育成を目指して取り組みを進めています。
今後は、日本の大企業と海外SUの結びつきをより強めていきたいと考えています。海外の展示会に参加しても、日本企業のオープンイノベーションへの取り組みに対して、自社との協業を求める声を、現地のスタートアップ企業からたくい多くいただきました。
また、日本に国外からの投資を呼び込むには、海外の投資家と日本の投資家・VCが結びつくことも重要です。2025年5月のSusHi Techイベントでも海外から投資家を招待する予定ですが、そのキックオフとして本イベントの実施に至りました。
齊藤:私自身、シリコンバレーに2015年から5年間、駐在していた時にも感じたことですが、海外のスタートアップにとって、国際展開時における、東京のプライオリティは決して低くないと感じています。また、近年地政学的な観点からも、その重要度がより一層、高まっていると思います。
Sozo Venturesは、シリコンバレーに本社を置くVCであり、アメリカを中心に、主に海外スタートアップ企業に出資を担い、東京オフィスは、事業展開の支援役として、これまでさまざまな業界のスタートアップ企業の日本進出をサポートしてきました。業界のトップクラスのスタートアップほど、トップティアのVCを選ぶ傾向にあることから、双方がwin-winの信頼関係を築くことがとても重要です。スタートアップが日本展開を進める際には、日本企業とのパートナーシップの組み方をあらゆる角度からアドバイスしています。
具体的には、当たり前のことですが、真に成功するパートナー先を見極めることが、大切になります。Fintech企業であれば、銀行と組めば良いというようなシンプルなものではありません。一義的にはパートナーとして浮かばない業界、例えば、Fintechであったとしても、コンビニが最も有効なパートナーになる可能性もあります。また、あるSaaS企業の場合、日本での最初のドライバーになってくれたのは生命保険会社でした。
パートナーシップを見定めるには、日ごろから、アライアンスを組む潜在的な候補先との丁寧なコミュニケーションとネットワーキング活動も不可欠です。同じ会社の同じ新規事業の部署であっても、担当者個人によって、スタートアップの見方や熱意は異なります。事業をいかに自分事化できているか否かが、成功を左右すると感じています。
それ以外のポイントとして、例えば、海外のスタートアップ企業が日本でオフィスを設立する際、日本法人のCountry Managerの存在も大切です。Country Managerは、日本のマーケットに精通して、セールスに長けているだけではなく、それを本社にも正しく伝えるコミュニケーション力が必要です。その為、当社としても、Country Manager経験者とのネットワークを大切にしています。
今後、日本発スタートアップの海外進出が広がる際にも、同じような課題が生じると思います。その為、スタートアップを立ち上げる早い段階から、海外展開を見据えたチームを編成する必要があります。「まず日本のマーケットを成し遂げて、それから海外に」というステップに捉われ過ぎると、海外進出へのスピード感や、ハードルが上がってしまうことにも繋がりかねません。そうした観点からのご支援も、今後強化していく予定です。
スタートアップ・ゲノムジャパン 代表取締役社長 西口 尚宏氏
西口:スタートアップ・エコシステムは世界に300都市存在していますが、ロンドン・ニューヨーク・シリコンバレーで、3都市は不動のトップ3の地位を占めています。東京は現在10位ですが、大企業の皆様にエコシステム作りにより関与いただければ、より順位を上げられる余地があります。
また、アメリカでは、SUエコシステムが全国に存在しているのも特徴であり、シリコンバレーのみならず全部で18都市が上位40位にランクインしています。EU圏は、国単位の中での都市数は多くありませんが、地域全体ではランキング上位の都市が多く存在します。
スタートアップ・エコシステムは、もはや一国や一地域で完結しない、国際的なトレンドになっています。東京圏のエコシステムでも、グローバリゼーションは最優先事項の一つです。今後は他国の投資家も巻き込んで、日本の大企業とグローバルエコシステムの連携をより深めていくことが東京の競争力を上げるうえで重要と考えています。
QAI Ventures CEO&Founder Alexandra Beckstein(アレクサンドラ・ベックステイン)氏
Alexandra:QAI Venturesは、量子分野に投資しているVCとしては、世界2番目の規模です。量子コンピューターによって、銀行・物流業界における最適化、農業・化学分野におけるシミュレーションという数理的課題の解決を目標に活動しており、主に量子/AIコンピューティング領域に投資を行っています。特定の領域に注力しているので、実証実験レベルにとどまらず、サプライチェーンすべての量子技術の発展を支援でき、投資機関がスタートアップ企業のハードウェアにアクセスしやすくなるという強みもあります。
当社はスイス本社で欧州市場、カナダのカルガリー支社で北米市場を押さえていますが、今後アジア市場へも進出にも力を入れていく予定です。技術力や大学のレベルが高いアジア地域への進出によって、エコシステムやインフラの協業先を広げると同時に、自社の課題解決につながるソリューションが提供されることを期待しています。
そして、アジアのSUエコシステムの中で、イノベーション指数や、大学発のスタートアップ起業状況、政府のイノベーションへの支援度合いなどを調査した結果、日本への進出を決めました。日本進出の決め手となったのは、政府がコンピューターを国家予算で購入し、国立の施設にて会員に無償で利用を認めるなど、国内の大企業が新技術を産業に導入するうえでSUを活用するエコシステムが構築されている点でした。
当社へのLP出資いただくことで、日本企業の皆様は、われわれの投資先のスタートアップのみならず、QAI Ventures 審査した全スタートアップ企業や、そうした企業が持っている技術をパターン化して載せているデータベースにアクセスできます。現在当社主導で、エコシステムを強化するためのデジタルプラットフォームを作っています。そして、われわれの協業先が当社にアクセスしやすいようなビジネスモデルを作ったり、当社のAPですべての自社ノレッジを閲覧できるようにしたりすることを目指しています。
日本企業の皆様は、投資家の立場で、われわれの審査プロセスを知ることができます。皆様を本社にお招きし、テクノロジー/ビジネス領域ごとに当社で招集したメンター(審査員)から、審査結果を通知します。審査は対象企業の事業リスクを発見するために行われているため、問題があるから直ちに出資できない、というわけではありません。合格としなくても、自社へのプログラム参加を促したり、数か月後に再審査を受けるよう求めたりすることもあります。
量子コンピューティング領域のエコシステムにて、日本の大企業の皆様にご協力いただきたいです。今後皆さんと議論を重ねて、さまざまな形で協業方法を模索していければと思います。